国家が性急に筋書きを描こうとするときには、必ず別の、読まれたくない筋書きがあるものです。示されたストーリーに同調する前に、今なぜ国はこのストーリーを語ろうとするのかを、慎重に考える必要があります。読まれたくない方の筋書きには何が書かれているのかを、注視せねばなりません。それが、人々の不安に乗じて権力が事実を覆い隠したり、捻(ね)じ曲げたりするのを防ぐ一番の方法です。
セレモニーには、全てを水に流す作用があります。それが国家権力のもとで行われるなら尚更です。もうこれ以上このことは語るな、という強烈なメッセージとなります。人々の感情に訴え、その口を塞ぐために、儀式は行われるのです。
◎小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。寄付サイト「ひとりじゃないよPJ」呼びかけ人。
※AERA 2022年8月1日号