■安さで勝負するチラシ打たない
その那波社長も目標の一つに挙げるのが、「スーパーまるおか」(群馬県高崎市)だ。この店の姿勢もユニークだ。店には大手メーカー品(ナショナルブランド)は一切置かず、日曜が定休日で、チラシも打たない。一般的なスーパーからみると異例ずくめだ。
丸岡守社長(77)は言う。
「チラシを見た人がまず注目するのは値段です。ほかの店に比べて、どれだけ安いかどうかを考える。そんなチラシを見せられたら、誰だって安いほうを選ぶでしょう。でもウチが勝負するのは、そこではない。私自身が本当に欲しいと思うような、おいしくて体にいいものを売りたい。高いか安いかではなく、ウマいかマズいかが基準です」
まるおかには、他店には見られない商品が目立つ。栃木県の農家が自家製のエサでヒヨコから育てた鶏が産んだ10個入り千円の「丈夫卵」や、国産大麦を深煎りしたティーバッグ15袋入り1580円の「上州屋純手炒り麦茶」、木おけで醸造したしょうゆ、化学調味料無添加のドレッシングといった品々が各ジャンルの棚に並ぶ。
厨房(ちゅうぼう)スペースも充実し、イタリア料理店やすし店、中華料理店で働いていた職人ら5人が腕によりをかけて総菜をつくる。
「ウチの会社にも、昼ご飯は毎日、まるおかの弁当と決めている社員がいます」(地元の飲料メーカー社員)。定休日前の土曜は県内外から客が集まり、開店前に行列ができることもある。
実はまるおかも、かつてはほかのスーパーと同じように、価格競争にしのぎを削っていた時期がある。しかし、経営は消耗するばかりで利益も思うように上がらない。利益が十分になければ質のいい商品は仕入れられないし、職人や店員の技術も生かせない。
転機となったのは、丸岡社長が30代前半だった約40年前に胃潰瘍(かいよう)を患ったことだ。
「胃の3分の2を切除し、食べたいものが食べられない時期がありました。普通に食べられること、元気でいられることの幸せを痛感し、決意が固まりました。もちろん、方針を転換したからといって、すぐに思うように売れるようになったわけではありません。反対する従業員もいました。決意してから対外的にもはっきりと方針の転換を示せるまで、約20年はかかりましたが、少しずつ思うような店に近づけてきました」(丸岡社長)
訪ねてみて驚いたのは、店が大型ショッピングセンター、イオンモール高崎の目の前にあったことだ。そんな立地にもかかわらず、コンビニよりも少し大きいほどの店へ、1日あたり1千人前後の客が訪れる。年間の売上高は約12億円。
「大手とウチとでは、コンセプトも品ぞろえも正反対。ですから、ショッピングモールのお客さんが立ち寄ってくれることも多い」(同)