北海道稚内市で創業以来、100年にわたって地元の食卓を支えてきたのが「相沢食料百貨店」だ。ウニやホタテ、タコといった旬の海産物や、猿払村産のバターや音威子府村産のそばなど、北海道の名産だけでなく、自然派の調味料など全国各地から仕入れた商品も扱う。
10年前に店の経営を継いだ4代目、福間加奈店長(40)はこう言う。
「地元の人たちには、いつまでも元気に買い物に来てもらいたい。スーパーは、ただモノを売るだけでなく、人と人、地域を結ぶハブの役割があると思います。そのため、生産者の話が聞けたり、季節の料理法が学べたりする『美味しい教室』や、体操やヨガ、バランスボールを使った健康教室を毎月開いています。商売は商いというように、お客さんが店に『飽きない』よう、ひたすら考え続ける毎日です」
■ネットの普及で地元の味を発信
心配なのは、やはり人口の減少だ。
稚内市の人口はピークだった1970年代の約5万5千人から、現時点の3万2千人足らずまで、約4割も減った。国立社会保障・人口問題研究所によると、2040年には2万人近くまで減る見通しだ。店は市内でも過疎化が進む地域にあり、今は年10億円前後の売り上げも、人口の減少ペースに合わせて少しずつ減ってきたという。
しかし、手をこまぬいてはいられない。20年5月にはネットショップを立ち上げた。
福間店長は言う。
「市外のファンも、どんどん増やしていきたい。今は市の出身者を中心に注文が寄せられています。好評なのは、その日に店頭に並べる旬の魚や野菜を詰め込んだ『おうちであいざわセット』や『自家製鮭粕漬焼』。これからの季節は特にウニがおいしいですよ。今後も力を入れていきます」
ネットの普及で、スーパーもいまや立地にとらわれない展開が可能になった。ご当地スーパーも例外ではない。前出の菅原さんによれば、紹介した店の多くが、ネット販売を手がけるという。
「かつては『飲食店や小売店の商圏は半径500メートル』などと言われましたが、もう当てはまりません。ネット販売の利用者がさらに増えれば、これまで地域や地元の味を守る存在だったご当地スーパーも、地域の味を守るだけでなく、発信する役割が期待されていくと思います」
また最近は値上がりが急速に進み、客も経営の側も、影響が心配だ。だが、前出の丸岡社長は揺るがない。
「インフレはこれから長く続くでしょう。どの商品も、仕入れや販売価格は上がるとみています。それでも、買いたいと思ってもらえるような良いものを提供していくつもりです」
これまでスーパーは、客の価値観や暮らしの変化に合わせて進化を遂げてきた。大手チェーンと一線を画したご当地スーパーが人気なのは、そうした進化の表れとも言える。地元使いするのもよし、旅の楽しみに訪れるもよし。ご当地スーパーで、その土地ならではの旬の味を味わおう。(本誌・池田正史)
※週刊朝日 2022年6月3日号