また、学習内容の振り返りをすることで、より正確な知識の定着が図れるとして、学習計画とその結果を細かく書き込めるシートもある。それらは、生徒が欲しい時にすぐ手に入れられるように、職員室前のレターケースに常備されている。

 そんな生徒が勉強に向き合いやすいようにする細かな工夫がたくさんあるが、「翠嵐スタンダード」に記されている授業の進度は決して速くはない。

 例えば、理系の数学は「3年7月までに数IIIの終了を目指し、演習時間を確保する」、英語は「大学入試に必要な最低限の内容は2学年までに終わらせる。3年生では演習を中心とした応用力を養う」といった具合だ。多くの中高一貫の進学校では、3年になる前には履修すべき内容を終えているとされている。

コロナ禍をプラスに

 中村総括教諭は、「公立3年間校の限界ぎりぎりを攻めています。行事、部活、勉強の全てをどうバランスよく回していくかを考えよう、と。これは、社会人リーダーに通じる資質でもあると思うので、重要視しています。『ハイパー三輪車を乗りこなせ』とよく言っています」

 同校は昨年の現役東大合格者数も44人。一昨年は15人だったので、大幅な伸びだ。それは、コロナ禍にうまく対応できたことが大きいという。

 初めて休校になった20年春、同校は早い段階でオンライン授業から、授業を録画して配信するオンデマンド授業に切り替えた。早送りも巻き戻しも自由自在。どんどん先に進むことができ、生徒に好評だったという。

 各教科の教員が、単元ごとに分担して録画を作成。教科担任をしていないクラスにも配信し、教員の負担減にもつながった。その分を授業研究に充てる副産物もあった。

 それまで地道に続けてきた日々の学習。それがコロナ対応との組み合わせによって大きく花開いたのだ。

 森上教育研究所の森上展安代表は、同校が躍進している背景を、こう分析する。

「ここ数年の大学受験生は、ちょうどリーマン・ショックの時期に小学校入学を迎えた世代。私立の需要が減り、中学受験ではなく、高校受験を選択する家庭が増えた。地頭のいい子たちが公立に多くいるのでしょう」

(編集部・古田真梨子)

AERA 2022年6月6日号より抜粋

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