
■自分のやりたかった音楽に出会えた
幸運な出会いもあり、3年次のときに実現したヨーヨー・マ氏との共演。廣津留さんは音楽が持つ力をあらためて感じたという。
「ヨーヨー・マさんが素晴らしい演奏家であることは、世界中の誰もが知っています。ただ、それ以上に素晴らしいのは、演奏で人の心を動かすだけでなく、音楽を通じて、自分の思いやメッセージも伝えていること。シルクロード・アンサンブルでも、文化や歴史を伝えるべく子どもたちに聴いてもらったり、慈善活動として難民キャンプで演奏したりと、彼のアクションはすべて教育活動や慈善活動につながっています。本当に大事なのは楽器を技術的にうまく弾くことではなく、自分の思いや音楽の背景にあるストーリーを世界に伝えることなのだと、ヨーヨー・マさんと出会って初めて気付きました。その出会いや彼の言動に感銘を受けたことが、私自身も音楽にきちんと向き合いたいという気持ちを強く後押ししてくれました。
共演でとくに印象に残っているのは、本番中に目が合ったとき、リハーサルとは違うリズムで弾くようにジェスチャーで知らせてくれたこと。私がその場の雰囲気にあわせて即興で弾くと、ヨーヨー・マさんは嬉しそうに笑顔で返してくれました。本番で非言語のコミュニケーションが生まれたときの高揚感は忘れることができません。私自身、特定のジャンルにこだわらずに音楽を表現したいと考えているので、ヨーヨー・マさんの自由に音楽を楽しむスタイルは、私にとってひとつの理想なのかもしれません」
(構成/奧田高大)
