■ありそうでなかった味 「絶対舌感」が作り出す

『スーパードライ OFFICIAL BOOK』の撮影風景。「ビールに合う魚つまみ」をテーマに、身近な食材から未体験の味を生み出していく。レシピを起こす神吉(右)との呼吸もピッタリだ(撮影/高野楓菜)
『スーパードライ OFFICIAL BOOK』の撮影風景。「ビールに合う魚つまみ」をテーマに、身近な食材から未体験の味を生み出していく。レシピを起こす神吉(右)との呼吸もピッタリだ(撮影/高野楓菜)

 素材はどこの家庭にもありそうなものばかり。それなのに、未体験の味。いったい、どうやって味を組み立てているのだろう?

「自分でもわからないんです。アイデアは常に考えていて、枕元にもノートを置いているけれど」

 料理家・栗原友に魅了された瞬間だった。

 栗原は昨年出版した『ひとりぶん、ふたりぶん刺身パックでさかなつまみ』のヒットで注目を集めた。「刺身は醤油とわさびで食べるだけじゃない」をコンセプトにパックの刺身を使った料理50品を紹介する。

 イカそうめんをタラコと和(あ)えて柿ピーをのせた「イカタラコ」。ブリの刺身をバターにくぐらせ、半熟の目玉焼きをのせてナンプラーと黒こしょうをかけた「ブリのバターしゃぶ」などなど、驚きのアイデアが満載だ。パックの刺身なら調理も簡単、魚のごみも出ない。なにより冒頭ページの言葉は「思いっきり適当につくってください」。

 魚は難しくない。さばけなくても大丈夫。料理は自由に楽しくつくってほしい。そんな栗原の思いに、多くの人が共鳴し、ファンが急増した。

 前出の神吉がこの本の仕掛け人だ。栗原との出会いは2017年。日本酒「賀茂鶴(かもつる)」のイベントで栗原がつくった「しば漬け入りポテサラ」に一発でノックアウトされた。

「ありそうでなかった味。あまりの衝撃に『どうやって考えたんですか?』と聞いたら『いや、そんなたいしたものじゃないから』って」

 本人には説明できないその能力を、神吉は「絶対舌感(したかん)」と呼ぶ。絶対音感の味覚バージョンだ。

「絶対音感のある人って一度聴いたものをすぐに弾けると言いますよね。栗原さんもそれと同じ。彼女はご両親の影響で小さい頃からいろんなものを食べている。それがすべて『舌』のなかに入っていて、感覚的に再現できるんだと思います」

 料理家・栗原はるみを母に持ち、3歳下の弟・心平も料理家だ。恵まれた環境に加えて、栗原には「魚なら誰にも負けない」という自負がある。

暮らしとモノ班 for promotion
【フジロック独占中継も話題】Amazonプライム会員向け動画配信サービス「Prime Video」はどれくらい配信作品が充実している?最新ランキングでチェックしてみよう
次のページ