撮影では、私は交響楽団の主宰として、観客席から演奏を見守っていたのですが、やはり魂の深い部分を揺さぶられましたし、音楽の素晴らしさを改めて感じました。クライマックスに近づくにつれ、どんどんうねりが大きくなっていく、そうした感覚は実際の撮影でも感じましたね。
水谷 僕は30代の頃、知り合いの音大の先生とときどき一緒にコンサートに行っていたのですが、ある日、初めて生のオーケストラで「ボレロ」の演奏を聴く機会があり、そのとき、「すごい世界に持っていかれた」という体験をしました。「すごい経験をした」という感覚が、その後もずっとどこかに残っていたのでしょうね。
「アマチュアの交響楽団」をテーマにした物語を考えたときに、自分のなかでは「やっぱりクライマックスはボレロだろうな」という確信のようなものは、初めからありました。
――映画では、吹き替えではなく生の演奏での撮影にこだわった。
檀 交響楽団の団員を演じた皆さんは、役を演じるために撮影前からそれぞれが個別に楽器の練習をされていたんです。そして、クランクイン前の顔合わせの日に、スタジオに楽器と楽譜を並べ、一緒に音合わせをされていたのですが、そのときの皆さんの姿が印象に残っています。それまではお一人で練習されていただけに、緊張するけれども音を合わせることの喜びもある、そうしたドキドキ感やワクワク感といったものもあったのだと思います。ゼロから練習をスタートされていたので、本当にすごいなと思いましたし、クランクアップする時には「楽器とお別れするのがさみしい」と皆さんおっしゃっていたので、すてきだな、と。
水谷 吹き替えを使うとどうしても、それが観客に伝わってしまいます。そうしたくはない、という思いがありました。それから、これは僕自身にも経験があることですが、楽器を演奏するって、本当に大変なことなんです。
「こんなことはできない」と思うようなところから始まり、それがいつしかできるようになっていく。僕は、そうした「苦痛」も「快感」に変わる、と信じているところがあります。スポーツにしても、楽器の演奏にしても、「本気で向き合っている」って、それだけで魅力的に見えますよね。