■おいしいから食べる
出身はカキの主要産地・広島県。年末や連休に帰省したときは、親族そろってカキを楽しむ。そんな彼も、一度だけカキに「あたった」ことがある。
「あの日は生ガキをたらふく食べました。なんとなくおなかの調子がおかしいと思ったら、下痢が止まらなくなった」
つらかった。カキの神様に見放された、と思った。それでも、今もカキを食べ続けている。
「おいしいから食べるんです。カキは悪くありませんから」
冒頭の若宮消費者担当相のように、「懲りずに食べる」カキラバーは多い。AERAの男性記者(43)もそうだ。編集部のミーティングに現れなかった日、彼は人知れずトイレにこもっていた。家族4人で生ガキを食べて、あたったのは自分だけ。「もともとおなかが弱いほう」だから、「カキを恨んではいない」。
なぜ、人はカキに魅了されるのか。カキの仲卸「山小三(やまこさ)」の佐渡俊彦さん(57)はこう説明する。
「カキはミネラルが豊富で、産地によって一粒一粒の塩味はもちろん、身と貝柱の大きさや厚みが全然違います。加熱すると水分が出てしまい、違いがわかりにくくなってしまう」
山小三では、十数種類のカキを取り扱っている。揚げたり焼いたりするならそこまで種類はなくていい。それぞれの繊細な味わいが楽しめるのは生食でこそ。食べ比べてほしい、という思いからだ。
「おなかが痛くなった前日にカキを食べていたら、カキのせいだと思うでしょう。でも、病院に行かない人も多い。“カキの冤罪”もあるかもしれない」
生食表示の見直しは、消費者、生産者、そしてカキ自身を守ることにつながるかもしれない。(編集部・福井しほ)
※AERA 2022年6月13日号