「自信を持って間違えると、説明を聞けばなぜ間違えたのかが、自らすぐに納得できますから」

 こうして九九すらあやしかった少年たちが、学び始めて2カ月後には高等学校卒業程度認定試験の合格ラインを軽々と越えていくのだ。

「人には学習適性年齢があると思うんです。教え子で、中学3年までa+a=2aが出来ない子がいて、彼曰(いわ)く『なんで文字なのに足し算が出来るんだ』と。でも、彼はその後、理系に進み技術者になりました。だから、その一時の彼らの能力、学力だけで判断してはいけないんです。学ぶ環境と時期により学力は必ず伸びる。これは少年院だけの話ではなく、我々も同じです」

 学力は生きる力である──。これが高橋さんの信念だ。要望がある限り、少年院の指導は続けていく。学力が伸びないつらさは痛いほど分かるから。その気持ちに寄り添いたいから。それでも「先のことですが」と前置きをしたうえで高橋さんは語る。

「数年前、聴覚障害者の高認試験対策教室が東京にあることを知りました。私は手話がある程度できるので、いつかはそこでもお手伝いできればと考えています。あと最近、一部の児童養護施設・更生保護施設に自著『語りかける中学数学』を版元のご厚意により寄贈させて頂きました。機会があれば児童養護施設でも、一緒に勉強をしたいと思っています」

(編集部・三島恵美子)

AERA 2022年6月13日号

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