AERAで連載中の「この人のこの本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。『僕に方程式を教えてください 少年院の数学教室』は、高橋一雄さんと瀬山士郎さん、村尾博司さんとの共著。なぜ数学が「非行少年」たちを立ち直らせるきっかけになるのか。10年間の少年院での数学指導から見えてきたことは、学力という希望だった。「数学には論証の金型(かながた)があるので、金型を理解すれば問題が解けます。すると、少年たちに抽象的概念・論理的思考が身につくんです」と高橋さん。同書にかける思いを聞いた。
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数学指導者の高橋一雄さん(61)と少年院との関わりは、今から20年前に自らの著書『かずおの語りかける数学』を少年院に寄贈したことに始まる。それから9年後の2011年、「とてもわかりやすいから」と寄贈した本で勉強する少年の姿を見た赤城少年院院長(当時)の村尾博司氏に招かれ、群馬大学名誉教授の瀬山士郎氏とともに少年院で教科指導がスタートした。
本著で紹介されているのは、高橋さんらが歩んだ少年院での教科指導の10年だ。それは同時に、少年院での数学がもたらした矯正教育の記録でもある。
<先生、俺たち能力はある。学力が無いだけなんだよ。だから、教えてくれよ!>
<あ~、もっと早く少年院に来てればよかった!>
驚くことなかれ。本著では、学びに貪欲(どんよく)な少年たちが次々と登場する。「勉強なんて……」と言っていた少年たちは、なぜ高橋さんの指導にこんなにも魅入られたのだろうか。
「私は喘息(ぜんそく)がひどく、中学生まで半分以上学校にいけませんでした。当然、授業にはついていけず、授業中は教師には無視され空気のような存在。悲しかった。だから、私の授業ではみんなのことをちゃんと見ているよと、一人ひとり必ず目を見て、全員に声掛けをして、誰ひとり置いてきぼりにしないよう意識をして授業をしています」
高橋さんが授業で繰り返す「自信を持って間違えてください」という言葉。そこにはこんな理由があった。