──子どもは家の外でもたくさんの経験をします。社会や常識との関わりをどう教えればよいでしょうか。
木村:常識については、主語を大きくしないことが大事だと思います。常識は個人の中でできあがるものだから、「私はこれが常識だと思う」「先生はこれが常識だと思っているみたい」という言い方にする。そのうえで、もし学校などが理不尽な要求をしているのであれば、「理不尽ですよ」ってちゃんと交渉しないと、子どもは大人に相談できなくなると思います。
ヨシタケ:先ほども言いましたが、僕は常識を気にする、扱いやすい子でした。でも思春期になると、友達が親や世の中に反発して、自分の価値観を表現し始める。すると、「こんなに従順で大丈夫か」って怖くなるんですよ。「世の中が許せない」人もいるけど、「許せてしまう」ことで悩む人もいる。親になった今でも、子どもが1日学校休んだだけで、置いていかれないかって思っちゃう。
木村:それはかなりの「常識人」ですね。
ヨシタケ:子どもが大事だからこそ、人並みのことができてほしいって、すごく乱暴な願望はぬぐいきれません。ただ、うちの場合、僕と妻がまるで逆の立場で物事を考えるので、家の中に常に二つの極端な意見があることは、子どもにとっていいことかもしれません。両親もこんなに違うから、いろんな考え方があるな、って思うでしょうから。
──夫婦間での家事育児のバランスは、どうやってとっていますか?
木村:私の持論では、夫が全部やっているつもりになってようやく半々なので、それをぜひ全国の夫婦で共有してほしいですね。その時間を作るためには、家事育児と仕事のベストバランスを自分の中で考える。よくあるのは、持てる時間のすべてを仕事に全振りして、時間がなくなること。でも、仕事にも育児にも、メリハリは必要です。仕事だけは最高水準であるべきと考える人は多いですが、それは違うはずで、仕事にも家事育児にも、最高水準から割っちゃいけないラインまであることを意識して、時間を割り振ってます。
ヨシタケ:うちは特に分担は決めず、得意なほうをやってます。でも、家庭のことって「なんで自分ばっかり」って思うことがあって、そういうときってたいてい相手もそう思ってる。大事なのは、お互いよく寝て、余裕があるときに落としどころを考えること。相手が切羽詰まっているときにそういう話題を切り出すほどの悲劇はないですから(笑)。あれもこれもしなきゃいけないのに全然できてないっていう減点方式で考えると、どんどんつらくなってきます。親の機嫌がいいことは何より大事。いいかげんな大人が楽しそうにしてる現場を見せることで、子どもは「大人になってみたい」って思うんじゃないかな。子育て、いろいろ悩むことはありますけど、最終的には「この子は大器晩成」という魔法の言葉がありますから!
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(構成/本誌・直木詩帆)
※週刊朝日 2022年6月17日号より抜粋