5月15日、ある1枚の広告が全国紙の朝刊に掲載された。中央に大きく書かれた題字は「すべての科学者に告ぐ」。
その下に続くメッセージは、「世界は急速に、良くない方向へ進んでいる。その真ん中に科学技術が存在していることは、否定のできない事実である」から始まり、「最先端の技術が、他国の軍事力を凌駕するため利用される。命を救うための研究が兵器に応用され、いとも簡単に人名を奪う」と、科学技術の負の側面を語る。そのうえで、「しかし、科学者たちよ。今こそ声を上げるべきだ。すべての技術は人類を幸福にするため生まれ、世界に平和をもたらすためにのみ生かされるべきだと」と、力強いメッセージで結んでいる。
この広告は、千葉県習志野市に本部を持つ千葉工業大学の設立80周年を記念して出稿されたもの。大学の広告らしからぬ斬新なデザインと挑戦的なメッセージで、SNSなどでも話題を呼んだ。
同大学は大学入学共通テスト利用入試の検定料免除をはじめとする入試改革で話題を集め、近年急速に知名度を高めている。いったい、どのような広報戦略を練っているのか。話を聞くべく、津田沼にあるキャンパスを訪れた。
迎えてくれたのは、入試広報部部長の日下部聡さん(55)。大学卒業後、大手予備校、教育系広告代理店を経て、14年前に千葉工大に転職した。現在は同大学の入試改革や広報を中心的に担っている。
1942年に設立された同大学は、5学部17学科からなる。学生数は学部・大学院をあわせると1万人ほど(22年4月時点)。関東では東京理科大学に次ぐ規模という。ロボット研究に強く、東日本大震災が起こった時には、同大学が開発した災害対応移動ロボットが福島第一原子力発電所の内部を調べた。先進工学部には、1年次からロボット制作を体験できる「未来ロボティクス学科」という名前の学科もある。
伝統・規模・研究実績のいずれも兼ね備えているようだが、日下部さんが転職した当時、一時は3万人を超えていた志願者は1万2千人を割り込んでおり、大学の経営状況は決して芳しくなかった。「留年率や退学率も高かった。何もかもが悪い方向へ向かっていた時期でした」と日下部さんは当時を振り返る。