
打席に立て! 打って、走って、100本ノック──。職場にあふれる用語の意味が実はよくわかりません。上司はどうして何でも野球にたとえるのでしょうか。AERA 2022年6月20日号ではそんな疑問にズバッと迫ってみました。
* * *
深夜0時過ぎ、記者のもとに届いたメール。開くとこんな言葉が飛び込んできた。
<ベンチから声を出しているだけではゲームは動かせません>
送り主は、企画をともに進めている上司の一人だった。メールはこう続く。
<チームメンバーは、みなプレーヤーです>
<球を見極め、打って、走って、ゲームを進めていく>
丁寧な言葉づかいの裏に、「熱い」思いが見え隠れする。ただ、インドア文化系出身の身としては、こうも思ってしまう。
どうして野球にたとえるのか、と──。
■正直ピンとこない
物事をわかりやすく説明するために、比喩を使う人は多いだろう。勇気を振り絞って最初に水に飛び込む「ファーストペンギン」の話を聞いたのは、一度や二度ではない。だが、あまたあるたとえのなかで頻出するのが、冒頭の「野球たとえ」だ。
「たとえ話は誰もが理解できるかどうかが大事。ただの趣味と違って、野球の情報は息を吸うように入ってくるものだから」
と上司は説明するが、ルールさえ知らない記者にとってはかなり縁遠い存在なんですが……。
なんでも野球にたとえる「野球上司」がいるのは、記者の職場だけではない。
ある会社では、「100本ノック」と称した社内報が飛び交っている。新入社員はルーキー、上役をベンチと表現し、仕事の取り組みや事業についてそれぞれが紹介する。もちろん、野球関連の事業はない。この会社に勤める女性は言う。
「最初はなんで野球?と思いましたが、盛り上げていくぜという熱意は伝わった。古い会社で野球が好きな人が多いのも、用語が使われる理由なのかも」