加藤:その一方で、私、クラスの自治委員に立候補して演説したの。「皆さん、100%正しいなんていうことは世の中にありません。だから私は自分の行動が100%正しいなんて言わない。ちょっとでも正しいかもしれないことをわかるためには、行動しなきゃだめです。デモに行こう」って演説したわけ。そしたら誰も投票してくれなかった。対立候補の「私たちは絶対正しい」に負けた。
大宮:えー!
加藤:これで東大生はインテリと呼べるのかと思いました。実存主義のサルトルやボーヴォワールの時代に、自分が絶対正しいみたいなことを言うなんて時代遅れじゃん、と。それで学生運動をやめました。そのあとは演劇研究会に入って、演劇をやめた後は歌も歌うようになって。
大宮:きっかけは?
加藤:父です。「女で東大に行って、そんなおもろない人生を送ってどうするねん」と言って、父がシャンソンコンクールに申し込んじゃった。
大宮:お父さんが才能を見抜いていたんですね。
加藤:もしかしたらね。歌手になって、ますます授業に出なくなり、6年目。55単位を1年で取らなきゃならず、大学に行くようになったら、所属事務所の社長のところへ、文部省(現文部科学省)から連絡がきてね。「ミニスカートでキャンパスの中を歩くのをやめさせなさい」って。
大宮:うわー国から? びっくり!
加藤:びっくりでしょう。デビューしたばかりで花柄のミニワンピとか着てたけど、それが人心を惑わせるんだって。ある先生は「君が来ると、僕もそわそわするから、単位はあげるから授業に来なくていい」って。
大宮:ずるいじゃないですか。
加藤:当時の東大は女性がまだ少なくて、男ばっかりの世界だったわね。
※AERA 2022年6月20日号