「マクロ経済スライド」という支給抑制策で今後30年間、年金額はほとんど増えないことが本誌「週刊朝日」先週号の独自調査で判明した。高齢者が相対的に「貧乏」になっていく構図は、支出の柱である「生活費」と比べるといっそう鮮明になる。浮かんでくるのは「老後破綻」の4文字である。
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2019年に起こった「老後資金2千万円問題」。金融庁の審議会が高齢者世帯の家計の先行きを試算したところ、年金などの収入だけでは2千万円足りなくなる結果が出たとするものだった。「そんな大金、準備できるはずがない」などと大きな論議を巻き起こし、多くの人に「老後資金といえば2千万円」という刷り込みを与えた。
あれから3年、金融界では今も余波が収まっていない。激しく反応したのは将来不安にかられた若い世代だった。金融機関のセミナーに競って参加し、証券会社に口座を開いた。とりわけ活況を呈したのが「積み立て投資」だった。運用益が非課税になる「つみたてNISA」は20年に110万口座増、21年は倍の210万口座も増加した。6~7割は20~30代という。
しかし考えてみると、若い世代は老後までの準備期間が長い。資産形成がうまくいけば、そのぶん楽になるし、働き続けていれば給料も上がっていく。
一方、これからリタイア年齢を迎える60代、50代の中高年はどうか。現時点からの資産形成は、リスクの取りすぎに注意が必要となり、限定的だ。貯蓄による準備で「万全」と言える人は皆無だろう。頼みの綱はやはり終身でもらえる国の年金……とすると、「2千万円問題」に正しく反応すべきだったのは、やはり中高年ではなかったのか。
そんな見方を裏付けるように、その中高年に驚愕の「数字」をたたきつけたのが本誌先週号(6月17日号)の特集記事「あなたがもらえる『本当の年金額』!」だった。なんと、年金額はこの先30年以上、ほとんど増えないことがわかったのだ。
簡単におさらいしておこう。
公的年金は今、高齢化による財政悪化によって「マクロ経済スライド」という支給抑制策が取られている。賃金や物価が伸びるほどには年金額を増やさないようにして、年金を「目減り」させる方策。1年ごとの「目減り」は小さくても、20年、30年と長期に及べば「ちりも積もれば……」で大きくなる。