19年の財政検証の「ケースV」(経済成長と労働参加が一定程度進むケース)の経済前提を使って、ニッセイ基礎研究所の中嶋邦夫上席研究員に今後もらえそうな「本当の年金額」をシミュレーションしてもらったところ、次のような結果が得られた。

・現役の平均収入(額面)は現在の月額「45.11万円」が54年度には「73.34万円」にまで上がる

・一方、生涯(20~59歳)の平均年収500万円の会社員世帯(同い年の専業主婦と2人)が受給する年金は当初の月額「21.57万円」が「23.55万円」にしかならない

 つまり、現役の収入は6割以上も増えるのに対して、年金額は1割弱しか上がらないのだ。年金額がどんどん「目減り」していき、その結果として「世の中の水準」に比べて高齢者が相対的に「貧乏」になっていく構図である。

■生活費増えるが年金額は横ばい

 これだけでも衝撃的だが、先週号でも触れたように、今回のシミュレーションは得られた年金額を家計レベルにまで落とし込むことをめざしている。ファイナンシャルプランナー(FP)が家計診断のツールとして使う「家計の長期予想表」(「キャッシュフロー表」と言う)の考え方を使って、年金の「目減り」が将来の家計にどのような影響を与えるのかを調べるのである。

 比較する対象は、家計の基本中の基本といえる「生活費」だ。先週号では、生涯の平均年収500万円の会社員世帯と同700万円の会社員世帯の「家計の長期予想表」(簡易版)をシミュレーションした。期間は夫婦が100歳になる54年度まで。収入は「年金額」、支出は「生活費」に絞って年間収支(年金額-生活費)を出し、その累計を求めた。

 生活費は標準的な家庭を想定し、総務省の家計調査なども参考にして「月額25万円」(年額300万円)とした。先週号のシミュレーションで見たとおり、年金額は「マクロ経済スライド」の結果、30年間ほとんど上がらない。しかし、生活費は物価上昇(ケースVは年間0.8%)に合わせて毎年少しずつだが着実に値上がりしていく。当初の300万円は32年度に「332万円」と約1割増になり、44年度には「365万円」に、そして54年度は「396万円」まで膨らむ。

 長い間のデフレ経済に慣れてしまったため、「モノの値段は上がらない」という先入観をお持ちの方も多くおられることだろう。しかし、ロシアによるウクライナ侵攻などで原油を筆頭に各種商品の「値上げ」が相次いでいる今こそ、頭を切り替えてほしい。経済の成長に合わせて物価が適度に上がっていくことこそがノーマルな状態なのである。

次のページ