「選手寿命を延ばすことは重要だが、女子が五輪後に引退するのは商業的な問題だ。年齢制限引き上げで問題は解決しない」
成熟した「美」を求める
しかし投票の結果は、フィギュア界が求めている「スケートの理想像」を浮き彫りにした。少女が4回転を跳んで世間を驚かせることよりも、熟練されたスケーターによる美とパワーの融合した滑りだ。「打倒ロシア女子」を掲げて幼少期から4回転を目指す潮流は、終焉(しゅうえん)を迎えることになった。
ただし、この変更は光と影を生む。影の部分は、本来は26年五輪を目指していた現在12~14歳の選手らだ。日本女子で唯一4回転トーループを成功させている島田麻央(13)は「26年の五輪で金メダルを」とかねて話していたし、21年全日本ノービス選手権の表彰台に乗った和田薫子(13)、村上遥奈(13)らも才能を芽吹かせている。彼女たちの五輪のチャンスは、8年後の30年へと先延ばしされた。
一方で、日本にはシニア年齢になってもトリプルアクセル(3回転半)や4回転に挑む、滑りとジャンプの均整がとれた選手が多く存在する。北京五輪でトリプルアクセルを決めた樋口新葉(21)、今年の非公式試合で「トリプルアクセル-3回転トーループ」を決めた渡辺倫果(19)、21年全日本選手権で4回転トーループに挑んだ住吉りをん(18)らだ。26年五輪に向けては、大技は1本程度に抑えつつ成熟した美を求める動きが加速していくことが予想される。
17歳に引き上げただけでは若い選手の心身の負担も、早期の引退も、すぐに解決するものではない。ジュニア期の育成方針や、4回転ジャンプへの偏重をどう扱うかのルール再検討も議論されていくべきである。
まずは、スケート界は大きくかじを切った。選手たちは新たな「スケートの理想」に向かって再スタートを切ることになる。(ライター・野口美恵
※AERA 2022年6月27日号