『古オタクの恋わずらい』ニコ・ニコルソン(講談社)
『古オタクの恋わずらい』ニコ・ニコルソン(講談社)

 異世界に転生しないが、『古オタクの恋わずらい』もおすすめという。

「オタクが市民権を得ていなかった90年代を思い起こす話です。現在では、マンガやアニメを好きと言っても『キモい』なんて言う人は少数ですが、当時は違いました。ツイッターなどで簡単にファン同士が出会える今と違い、仲間を探すのも一苦労。同人仲間との文通など懐かしい文化が描かれます。世代ではなくても、こんなふうに同人仲間と文通していたんだと新鮮に映るのではないでしょうか」

 今まで語られなかった内面を描く社会的な作品も増えてきた。

「社会で#MeToo運動が広がって、性被害に声を上げられなかった人たちの声が拾われるようになってきました。マンガでも、見過ごされていた部分にメスを入れた作品が出ています」(同)

■禁断の恋か性暴力か

『1122(いいふうふ)』などで知られる渡辺ペコさんの『恋じゃねえから』は、倉持さん、山脇さん両者が推薦した作品だ。

 中学時代、塾の先生に淡い恋心を抱いていた主人公・茜(あかね)には、紫(ゆかり)という友だちがいた。しかし、紫と先生との関係が縮まっていくのを感じ、友人関係に溝ができる。その後、40歳になった茜は、彫刻家になった先生の作品が中学時代の友だちの裸をモチーフにしたものだと気づき……。

『恋じゃねえから』渡辺ペコ(講談社)
『恋じゃねえから』渡辺ペコ(講談社)

「友だちは先生に裸の写真を撮られていました。当時は同意したかもしれないけど、今なぜ震えてしまうのでしょうか。先生と生徒との恋は『禁断の恋』とマンガで美化されることもありました。でも、現実に起こるそれは、もしかしたら恋とは違うものだったのかもしれません。マンガの功罪があると思います」(倉持さん)

 前出の山脇さんも「それまで語られることがなかった問題の核心に、少しずつ、丁寧に迫っていく作品が増えている」と指摘する。

「『恋じゃねえから』で描かれるのは、アーティストと、インスピレーションを与えるミューズの関係ですが、実は、“創作”のベールを剥ぐと、中にはこういった問題が隠されているのかも……と考えさせられます」

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