山脇さんが勧める作品には、峰なゆかさんの『わが子ちゃん』も。こちらは、自身の妊娠・出産・育児をめぐるエッセーマンガだ。
「お母さんはクリーンな存在でなければならないという圧に威勢のいい啖呵(たんか)を切るような、切れ味最高の作品です」
女性を取り巻く環境に切り込んだ作品も増えているという。
「『女の子がいる場所は』は国も宗教も文化的背景も異なるアフガニスタン、サウジアラビア、モロッコ、日本の少女たちが、『女の子だから』という理由で抱えざるをえない問題にスポットをあてた作品です」
■ルッキズムに切り込む
ルッキズム(外見至上主義)に切り込んだのは『ブスなんて言わないで』だ。
「学生時代、美醜の物差しに翻弄されてきた女性が社会に出て、自分をいじめていた同級生に再会。ルッキズムに影響を受けていた個々の認識が変容し、人間関係も変化していく……。この先が気になって仕方がない作品です」(山脇さん)
現代社会がはらむ問題を内包した壮大な物語の話題作も多い。
「マンガ大賞2022」大賞の『ダーウィン事変』は、ヒトとチンパンジーとの間に生まれたチャーリーが主人公。好奇にさらされつつ高校に通うチャーリーに友人もできるが、動物解放をうたうテロ組織から目をつけられてしまう。山脇さんは言う。
「異なる種の共存がテーマの硬派な作品です。世界中で分断が進む今こそ読みたいテーマに加え、エンタメとしても超一級。ページをめくるたび作品世界に引きこまれます」
そして、今年の手塚治虫文化賞マンガ大賞にもなった『チ。─地球の運動について─』について、山脇さんは「自分が見つけた真理を証明し、後世に伝えるために命を懸ける人たちに魂が震える」と言う。
本作は15世紀のヨーロッパを舞台に、C教という宗教の支配下で禁じられていた学説「地動説」を証明しようとする人たちを描いた作品。
「禁じられた学説を証明しようとすることで犠牲者も出ますが、執行する側の多くは自分が置かれた立場や社会システムのなかで、“そうすべき”理由のもとで動いている。真理に突き動かされる人の美しさと同時に、社会に取り込まれたときの暴力性も描かれていて、現代にも通じるお話だなと思いました」(同)
(編集部・井上有紀子)