作家・画家の大宮エリーさんの連載「東大ふたり同窓会」。東大卒を隠して生きてきたという大宮さんが、同窓生と語り合い、東大ってなんぼのもんかと考えます。3人目のゲスト加藤登紀子さんが卒業の日のできごとを語ります。
* * *
大宮:それで、卒業は?
加藤:卒業試験もパスして、明日は卒業式という日に、学生たちが卒業式をボイコットすることになったの。
大宮:おときさんらしい最後ですね。
加藤:私は振り袖を着て卒業証書を抱えて女性週刊誌のグラビアを飾る予定だったの。でもボイコットのニュースを見て一晩悩んでね。それで、ジーパンをはいてデモをしに行った。
大宮:ドラマみたい!
加藤:週刊誌は座り込みをしている私の写真を撮ってましたね。この卒業式ボイコットを機に闘争が激しくなっていって、その年、学生たちが安田講堂を占拠したの。私はたまたま6年かかって卒業したんだけど、東大の歴史の中で最もすごいことがあった1968年に卒業したことが、私が東大に行った一番の価値です。
大宮:東大がマグマのような時代にいたんですね。
加藤:今はもう東大はすっかり変わってしまったわね。駒場キャンパスに行ってびっくりするのは、本館(1号館)の前に盛り盛りとした木があるでしょ。
大宮:はい。
加藤:あれは、昔はなかったの。
大宮:植えたんですか?
加藤:そうだよ。学生がそこに集まるのを恐れて植えたんだと思う。
大宮:なんと!
加藤:安田講堂の前には美しい芝生とベンチがあるけど、あんなものはなかった。ただ何千人も集まれるだけの広場があった。今の人は全然気づかないけど、すっかり変わった。
大宮:へえ。
加藤:寮は個人部屋になりました。若い子が個人部屋がいいという流れもあると思うけど、昔みたいな8人部屋は危険だと。対談の最初に言った廃寮反対運動もそういう背景があったことなのね。
大宮:(私が在学中にあった廃寮反対運動は)壮大なドラマの最後の線香花火みたいな感じだったんですね。