岸田文雄首相が安倍晋三元首相の国葬を実施すると表明したことに批判の声が上がっている。
その理由にはいくつかの次元がある。最も根源的な批判は安倍氏の人格面の問題だ。「モリ・カケ・サクラ」などの不祥事はその証左であり、これだけで国葬には値しないとなる。森友学園事件で自殺に追い込まれた元財務省職員赤木俊夫さんとその妻雅子さんのことを想えばなおさらだ。
次の次元は、首相としての功績だ。経済面では、アベノミクスの結果、日本の国際的地位も賃金も下がった。上がったのは株と不動産だけで金持ちが儲かり格差が拡大。産業も競争力を失い、経済が弱いので金融引き締めができず、円安で国民が困窮するのに打つ手がない。悲惨な状況である。
「外交の安倍」も、ロシアに馬鹿にされ北方領土返還の夢はついえた。北朝鮮にも相手にされず拉致問題は前進なしで韓国・中国との関係も最悪。集団的自衛権の行使容認や武器輸出解禁、さらには自衛隊の米軍との一体化の推進と武器爆買いは、憲法違反、平和主義の放棄、そして、米中対立に自ら巻き込まれて戦争の危険を高めたとなる。
最後の批判は手続き論だ。岸田首相が独断で多額の税金を投入する国葬と決めたのは非民主的だというもの。反論の余地はなさそうだ。
これほど反対が強いのに、「決めない首相」岸田氏があえて国葬を決断したのは、安倍氏が掴んでいた右翼の保守派岩盤支持層をつなぎ留めるためだろう。党内最大派閥安倍派の支持も得られるという計算もある。
さらに、岸田氏には国葬を東京五輪と重ねる驚きのシナリオがあるのではないか。
東京五輪も開催前は反対が多かったが、開催すると日本選手の活躍で国民は熱狂。批判は消えて国民の愛国心が高揚するというおまけまでついた。
国葬には各国から多くの首脳が集まる。バイデン、オバマ、トランプの米大統領トリオ来日もあり得る。岸田首相と彼らのツーショットがメディアに溢れ、G7サミットよりも派手な舞台になる。国民は、喜び、内閣支持率70%も夢ではない。