火の発見とエネルギー革命、歴史を変えたビール・ワイン・蒸留酒、金・銀への欲望が世界をグローバル化した、石油に浮かぶ文明、ドラッグの魔力、化学兵器と核兵器…。化学は人類を大きく動かしている――。白熱のサイエンスエンターテイメント『世界史は化学でできている』は、朝日新聞、毎日新聞、日本経済新聞夕刊、読売新聞夕刊と書評が相次ぎ、発売たちまち7万部を突破。『Newton9月号 特集 科学名著図鑑』において、「科学の名著100冊」にも選出された。
池谷裕二氏(脳研究者、東京大学教授)「こんなに楽しい化学の本は初めてだ。スケールが大きいのにとても身近。現実的だけど神秘的。文理が融合された多面的な“化学”に魅了されっぱなしだ」と絶賛されたその内容の一部を紹介します。
■大航海時代に「発見」された植物
ジャガイモが世界各地で植えられるようになったのはそんなに古いことではない。ジャガイモの故郷を辿っていくと、南米のチリの山のなかに辿りつく。アンデス山地だ。
そのあたりにはいまもジャガイモの野生種が暮らしている。紫色の花も葉の形も全体もジャガイモに似ているが、あまりにも小さい。根元から掘ってみると、小指の先ほどのイモをつけている。中央アンデスのあちこちに見られるが、このイモには毒があって食べられない。
アンデスの人々は、こうした野生種にさらに手をかけて作物に仕上げていった。イモが、より大きく、よりおいしく、さらに毒が少ない個体を選んでいったのだろう。ペルーでは三〇〇種類ものジャガイモが栽培されていた。
ジャガイモがヨーロッパに伝えられたのは、クリストファー・コロンブス(一四五一頃~一五〇六)やフランシスコ・ピサロ(一四七〇頃~一五四一)などが活躍した大航海時代だ。
十六世紀にスペイン人がアメリカ大陸を「発見」したとき、そこに見なれない植物が生えているのを見つけたが、その一つがジャガイモだった。やがてヨーロッパに導入されたが、それがいつのことかははっきりしない。その後、ジャガイモの有用性が広まり、世界のあちこちで栽培されるようになった。