林:ああ、なるほど。私もいまハンセン病のことを調べてるんですけど、日本は“ケガレ意識”というのが昔からあって、ちょっと異常なことが行われていたことは事実なんですよね。
間宮:そうなんですか。
林:丑松は下宿先の娘さんのお志保さん(石井杏奈)が好きなのに、自分の出自が打ち明けられなくて、あの苦悩する姿は見てる人にひしひしと伝わってきましたよ。お志保役の石井杏奈さんって、私、あんまり存じ上げなかったけど、「ソロモンの偽証」(2015年)とか「東京ラブストーリー」(20年)に出てた方なんですね。
間宮:そうです、そうです。
林:特に、尊敬する猪子先生(眞島秀和)のところに行く丑松の熱っぽさって、まさしく明治の青年だなと思いました。
間宮:ああ、猪子先生(作中に出てくる被差別部落出身の思想家)と丑松が初めて会うときですね。猪子先生と出会ったことで、丑松の感情に大きな変化が起こるスイッチとなるシーンなので、そこは自分も大事にしたいと思っていたら、たまたま眞島さんの合流が撮影の終盤だったので、ようやく会えたということもあって、うまく感情をリンクさせることができました。
林:それでああいう熱いシーンになったんですね。小さい生徒さんたちとの共演もいい感じで、最後、感動的なシーンがありました。
間宮:最後の授業ですね。生徒一人ひとりと教師との人間同士の対話を心がけているのが丑松のよさだと思ったので、そこは大事にしたいなと思いました。もともと最初の脚本では、生徒たちに対して敬語を使ってなかったんです。でも、監督と話して、丑松の実直さを表現するために、生徒たちとの会話はすべて敬語にしました。
林:確かに「おまえたちは」ではなくて、「あなたたちは」という敬語でしたね。「いわれなき差別がどんなものであるか」という丑松先生の話、この映画の主題ですが、「あなたたちはそういう差別をなくす世の中にしてほしい」という言葉に、子どもたちはみんな泣きますよね。観客も涙するシーンだと思いますけど、あのシーン、何度も撮り直したんですか。
間宮:一回ではなかったですね。けっこう時間もかかりました。一日かけたと思います。
林:私は、丑松さんと土屋先生(矢本悠馬)の友情も、すごくいいと思いました。土屋先生の存在って大きいですよね。
間宮:大きいですね。自分にあんなふうに接してくれる先生が一人いるというだけで、丑松はどんなに救われたか。
(構成/本誌・唐澤俊介 編集協力/一木俊雄)
※週刊朝日 2022年7月22日号より抜粋