富士山はこれまで、約100年に1度の周期で噴火してきた。最後の噴火は江戸時代中期の1707年。「宝永噴火」と呼ばれ、江戸の街に大量の火山灰を降らせた。しかしそれ以降、300年以上沈黙を保っている。
「ということは、地下にマグマを大量にため続けています。富士山の地下20キロにマグマをため込んだ『マグマだまり』があり、すでにパンパン。いつ噴火してもおかしくありません」(鎌田名誉教授)
6時間が2時間に短縮
そうした状態にある中、さらに憂慮すべき事態が起きた。11年3月11日、マグニチュード9の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)が発生したのだ。鎌田名誉教授は、この未曽有の地震が富士山を巡る状況を一変させたと話す。
「地震の4日後、富士山のマグマだまりの真上で震度6強の地震が発生しました。それにより、マグマだまりの天井部分の岩盤がひび割れを起こし、マグマだまりの圧力が下がった可能性があります」
マグマには約5%の水分が含まれ、それが減圧したマグマの中で水蒸気となり体積が500倍以上に増え、マグマだまりの外に出ようとしていると考えられるという。
ひとたび富士山が噴火すれば被害は甚大だ。
地図で示すように、溶岩流は神奈川県だけでなく静岡県や山梨県など広範囲に広がる。
山梨県富士吉田市では、溶岩流の市街地到達時間は、これまでの6時間から2時間に短縮された。溶岩流だけでなく噴火によって火山灰や噴石が降り、泥流が町を襲う。東海道新幹線や東名・新東名高速道路といった主要交通網が、寸断される恐れもある。
周辺自治体だけではない。100キロ近く離れた首都圏にも、深刻な被害をもたらすことがわかった。
3時間後には首都機能はマヒする──。昨年3月、政府の中央防災会議の作業部会は衝撃的な調査結果を公表した。「宝永噴火」と同規模の噴火が起き、偏西風が吹くと、火山灰は3時間で首都圏の広範囲を直撃。東京都新宿区で約10センチ、三鷹市で20センチ弱、横浜市で2センチ程度積もるとした。
先の鎌田名誉教授によれば、火山灰の正体は、細かいガラスの破片。それがコンピューターや精密機械の細部に入り込むと使い物にならなくなり、電気水道ガスなどすべてのライフラインをストップさせるという。