サブスクなどのデジタル配信なら一日中、音楽をかけていられるこの時代に、長くても片面20~30分で終わってしまうアナログレコードが人気だ。耳だけでなく、目で見て手で触って聴ける味わいは、気持ちを豊かにする。AERA 2021年5月24日号に掲載された記事で、売れ続ける「アナログ」の魅力に迫る。
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東京・下北沢駅近くに「ボーナストラック」という商業施設ができたのは2020年の4月のこと。飲食、雑貨、書店など個性豊かな店舗が連なる一角に「pianola records(ピアノラ レコーズ)」はある。
最初の緊急事態宣言直前のオープンというハンデもありながら、今年の4月で1周年を迎えた。店内に並んでいるのは、店主の國友洋平さん(36)の目と耳で選ばれたアナログレコードが中心で、一般的なポップスやロックとは一線を画した実験的な作品が多い。
驚かされるのは、ジャンルやアーティスト名を記した仕切り板がないことだ。レコードを探しやすくなることから仕切り板を使う店が多い中、なぜか。
「不親切かなという葛藤はありました。前職のレコード店には(仕切り板が)あったのですが、お客さんは用のあるコーナーしか見なくて、それだと広がりがあまりなくなるんです。面白い音楽の聴き方してる人って、お店のレコードを全部見る。だったらジャンル分けはいらないと思ったんです」(國友さん)
体験で聞く幅が広がる
まだ「一見さんは少ない」そうだが、一方では自分のやり方を貫くこの店のリピーターになる若年層もいるという。
「知らない盤を一枚買って家に帰るまでが楽しかったり、そのときはわからなくてもいつか気に入る瞬間があったりする。そういう体験の集積で音楽を聴く幅は広がっていく。そんなオールドスクールな買い方も若い人たちにさせてあげたい」(同)
アナログレコードが売れている。国内での昨年のレコード売り上げは、CDやカセットを含めた音楽ソフト全体では前年比86.7%であったにもかかわらず、アナログではアルバム112%、シングル105%の増加(サウンドスキャンジャパン調べ)。ここ数年の右肩上がりの傾向は、順調に続いている。