バンド「サニーデイ・サービス」やソロ活動を通じて音楽の作り手であり、レコードレーベル主宰者でもある曽我部恵一さん(49)は、昨年4月レコード店「PINK MOON RECORDS」を下北沢で始めた。サニーデイ・サービスのデビュー(94年)から一貫してレコードへの愛着を公言し続けてきた。
「僕らはデビューがCDの時代で、アナログを作るのが本当に夢だった時代だから、いまだに自分で作るときはこだわりがあります」(曽我部さん)
アナログ行為の大切さ
筆者が今年3月、京都のライブハウス磔磔(たくたく)で見たサニーデイ・サービスのライブでも、5年前にリリースしたアルバムのアナログ盤がプレスを重ね、もはやスタンパー(レコードの元になる鉄製の型)が擦り切れそうなので新調できるのが嬉しいとMCで語るほど。マニアックなこだわりだが、レコードの作り方を伝えていくことも、大切な過程だ。
曽我部さんは店頭にいると、レコードのかけ方がわからない若いお客さんの相手をすることもあるそうだ。「針を落とすとは?」「A面B面とは?」。手間を惜しまずに説明する。
「家でコーヒーを淹れてレコードをかけるっていうのは、すごく貴重で豊かな行為です。レコードで音楽を聴くのは素敵なことなんだとみんなが思えるところを目指したい。僕らの世代はその素敵さにやられて今に至っている。すべてがデジタルだからこそ、いくつかのアナログな行為が生活に残っているというのは、すごく大事なことだと思います」(曽我部さん)
そもそもレコードはどうやって音が鳴るのか──そんな疑問を持った人は、レコードがもたらす豊かな世界の入り口に立っている。そこから先に導く役目を、レコードの魅力を知る世代が真剣に考えていくタイミングだ。飾りじゃないのよレコードは。
(ライター・松永良平)
※AERA 2021年5月24日号