3月、東京・渋谷にオープンした「ROCK in TOKYO」は、レコード店「ディスクユニオン」が新たに開いた専門店。コレクターが唸るほど質量ともに豊富で、コロナ禍でなければ世界中からレコードを探し求めて訪れる人がいる渋谷の街を、さらに賑わせる存在だ。
08年にアメリカで始まった「レコード・ストア・デイ」や日本発信の「レコードの日」にリリースされる限定盤には毎回多くの注目が集まり、18年にはソニー・ミュージックエンタテインメントでも自社工場での国内レコード製造を約29年ぶりに再開した。音楽メディアとしてのアナログレコードは再定着したといえるだろう。
発見から継承へバトン
だが、そんな堅調さを実感している今だからこそ、先の國友さんしかり、レコードの未来を思い、行動している人たちがいる。かつてレコードで育った世代のノスタルジーや、1990年代にレコードを買うことがおしゃれだった時代の延長とも異なる、配信時代にレコードの新たな魅力を発見した世代へのバトンの渡し方。レコード文化の灯を再び消さないサステナビリティーだ。
レコードを自分たちでも発売したいというアーティストなどの声に応えるべく、国内のレコード製造最大手の「東洋化成」との橋渡しをしている松下源(はじめ)さん(32)もしかり。
ミュージシャン「思い出野郎Aチーム」のメンバーとしても活動する松下さんは、アーティスト個人がアナログを制作する際のハードルの高さに常々疑問を感じていた。元手無しでアナログを作れて、なおかつ利益も受けることができる仕組みが、レコードのプレス(製造)と流通の両方を兼ねている東洋化成なら可能だと思いつき、今の仕事スタイルを選択した。
これならインディーズで活動しているアーティストも気軽にアナログを作れるようになる、と。ビッグビジネスではないが、サステナビリティーとしては有効な手段だ。
「以前は、みんなが欲しくなるようなものをアナログで出していたのに、今は『CDが売れないからアナログを作んなきゃ』になってしまってる。レコードにとって今、一番いい売り方って何なんだろう、というところに立ち返った方がいいと思う。要は(レコードが)バブルだから、あんまり周りが見えてない大人たちが集まってきたということです」(松下さん)