作品には、興奮したオスたちが卵を宿した大きなメスにわれ先としがみつく様子が写し出される。
「抱接(ほうせつ)と、いうんですけれど、メスの背中にオスが抱きついて、メスが卵を出すと同時にオスが精子をかけるんです」
エゴノキの白い花びらが一面に散った水面の下で展開する壮絶なメスを求める争い。
「10匹、20匹のオスが団子のようにメスにまとわりついちゃう。なので、水面に上がって呼吸できない。この白くなったのは窒息してしまって、もう死んでいます」
■周囲を確認しないとやられてしまう
さらに、このたくさんの「ごちそう」を目当てにヒメハブがうじゃうじゃと集まってくる。
沖縄の人はヒメハブのことを「ニーブヤー」と呼ぶ。
「寝坊助っていう意味なんですけれど、それくらい普段はぼーっとして、あまり動かないハブなんです。ところが、このときばかりはすごく俊敏で、動くものにくらいついていく」
ホンハブ(一般的なハブ。主にネズミなどを捕食する)より毒性は弱いというものの、「牙で引っかかれたくらいのことはあります」。
「一斉産卵の時期にはヒメハブがほんとうにいたるところにいます。だから、カエルを見つけてもすぐに撮りに行かず、周囲を見回してヒメハブがいないことを確認しないとやられてしまう」
獲物をたらふく食べたのか、いかにも凶悪そうなまだら模様の太い胴がパンパンに膨れ上がったヒメハブの姿。
「カエルとヘビ、そして撮影者である自分。3者がみんな一様に興奮して、熱病にかかったかのようになってしまう」
ある意味、悲惨ともいえる場面なのだが、氏家さんは言う。
「カエルというと、のどかなイメージがありますけれど、激しい生存競争を繰り広げている。たとえそこで死んだとしても子孫を残さなければならない。こんなふうに、必死に生きているんだよ、というところを見ていただきたい」
■撮影のチャンスは1年でほぼ1日
撮影場所は、自宅のある宜野湾市から車で2時間半ほど離れた沖縄本島北部の国頭村。
一斉産卵のピークは、1年間のうちほぼ1日しかないので、「そこに当たるには、けっこう読みが必要」と言う。
「今回の作品は2年前の12月から2月にかけて撮影しましたが、ハナサキガエルの産卵はピークをちょっと過ぎたくらいで運よく撮影できました。アカガエルはほぼ終盤ですね。アカガエルの産卵のピークは、もうずーっと、何年も当たっていないです。なかなかそのへんが難しい」