冬の夜、山原(やんばる。沖縄本島北部に広がる森林)の林道に車を止め、森の中に足を踏み入れるのは7時ごろ。沢沿いを分け入っていくと、あの鳴き声が聞こえてくる。「ぼくたちはここにいるよ」。
「赤いライトを使って、カエルの様子をうかがいながら探します。ガサガサすると、カエルを追いたててしまって、もうそこでもう産卵しなくなってしまうかもしれませんから」
森の中には4、5時間滞在するが、その間ずっと撮影を続けるわけではないという。
「『ちょっと、撮らせてもらおうかな』と言って撮影し、しばらくは休んで、またちょっと撮影する。間隔を開けながら、カエルに負担をかけないように気をつかいながら写しています」
ストロボを発光する際は、「ディフューザー」という器具を使い、光をやわらげる。
■カエルの「意志の強さ」を感じる
いつも気をつけているのは、説明的な「図鑑写真にならないように」すること。
「この子のいちばん魅力的な部分ってどこかなあ、いま何をしようと思ってこういうふうにしているのかな、とか、この子たちの意志というか、考えていることを表現することを心がけています」
氏家さんはカエルたちに「意志の強さ」を感じるという。
「横をヘビがすり抜けていっても微動だにしない。本人たちは戦々恐々としているかもしれないんですけれど、誰に左右されるわけでもなく、自分のいたいところにいる。それで、うまく生き残れなかったとしても、誰のせいにもせず、自分のことは全部、自分で決めて、一人でやっていくんだ、という意志を感じます。そういうところを尊敬している」
「かえるさん」という作品タイトルは、カエルを擬人化しているわけではなく、「尊敬の気持ちを表して『さん』をつけている」。
「カエルへの憧れというか、こんなふうに自分も誰かの意見に左右されたり、流されたりせず、自分の意思をしっかりと持ってやっていけたらなあ、と。カエルを撮り続けているのはそういう理由もありますね」
(文=アサヒカメラ・米倉昭仁)
【MEMO】氏家聡写真展「かえるさん ~冬に恋する沖縄のかえる達~」
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