撮影/越智貴雄
撮影/越智貴雄

 退院できたのは、2018年秋。入院生活は2年半、手術は20回以上受けた。義手と義足で生活ができるようには、それほどの時間がかかる。入院生活とリハビリを耐え抜いたよしえさんは、料理にも挑戦し、車の運転もできるようになった。

 この頃から、よしえさんは不思議な経験をするようになった。

「検診で病院の待合室に座っていると、会ったこともない女性から『一緒にお茶してもらえませんか?』と言われたんです。最初は年配の方でした。それで事故のことや娘のことを、聞かれるままに答えました。すると、最後に涙を流しながら『勇気をもらいました』と言ってくれるんです。そんなことが2度ありました」

 自分の話を聞いて「勇気をもらった」と言ってくれる人がいる。不思議な経験が重なって、よしえさんの心に変化が起きてきた。

「正直、人前に出ることが辛い時期もありました。それでも、この世界に神様がいるのだとしたら『私に試練を与えたのかな』と考えるようになった。神様から『あなたは生きなさい』という使命をもらったんだから、自分のやりたいことは全部やろうと決めました」

 よしえさんは、高校時代に新体操をしていた。そんなこともあって、入院中に看護助手から「車いすダンスという競技があるんですよ」と教えてもらっていた。調べてみると、ポリオや脳性まひの人も競技に参加していた。それで、退院してから車いすダンス教室に見学に行ってみた。教室では、様々な障害を持つ人が、笑いながら踊っていた。

「楽しそうなその様子を見て、すぐに入会を決めました。それで、自宅の近くでも練習がしたくで、近所のジャズダンススタジオに『義手と義足なんですけど、ダンスをやりたいんですが……』と電話をかけてみたんです。電話に出たスタジオの先生も驚いていましたが、『障がい者の方は教えたことがないのですが、私も勉強させていただきます』と快く引き受けてくれました」

 こうして、義手と義足のダンサー「キャロットよしえ」は誕生した。「キャロット」という名前は、よしえさんが好きなディズニー映画『ズートピア』の主人公ジュディ・ホップスの好物が人参であることから名付けたという。

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仕事も徐々に再開、ダンサーとしても活躍