ダンスをするには、体力も必要だ。そこで、義足ユーザーを中心とした陸上クラブ「スタートラインtokyo」にも参加した。今の目標は、100メートルを走りきること。焦らず、ゆっくりと距離を伸ばしている。

 スタートラインtokyoの代表は、義肢装具士の臼井二美男さん。臼井さんは、スポーツ用の義足を日本で初めて製作し、厚生労働省が表彰する「現代の名工」にも選ばれた義足づくりの職人だ。臼井さんは、よしえさんについてこう話す。

「よしえさんは、何事にも前向きでパワーがある。今の日本では、まだ義手や義足になると家から出たがらない人がたくさんいます。だけど、彼女のような人がもっと表に出て活躍してくれれば、そういった考え方も変わっていくと思う」

 ダンスの技術も着実に上達し、手を使わずに側転をする「側宙」もできるようになった。最近では、幼稚園や保育園に呼ばれて踊りを披露することもある。3月14日には、千葉県市原市で開催される「つながる・ひろがる市原の輪フェスタ2021春」にダンサーとして出演する。

「ダンスをして、人に見られることが楽しくなったんです。『こんな私でも踊っていいんだ』って、今は義手も義足もふだんから見せて歩くようになりました。次はヒップホップダンスに挑戦したいんです」

 事故と長い闘病生活を経て、よしえさんは生まれ変わった。美容師時代の経験を活かして、自宅でまつげカールの仕事も始めた。

 大切にしている思い出がある。リハビリ生活が一進一退を繰り返し、PTSDの発症で最も後ろ向きな気持ちになった時のことだ。よしえさんは、娘からこんなことを言われた。

「大切なのは『今』だよ」

 そして、娘は近くにあったダンボールに「今」と書いた。よしえさんは、それをいつも見える所に飾り、「神様からもらった試練」に耐えてきた。

 今は、義手・義足のダンサーとして「やれることは何でもやりたい」と話す。そこまで前向きに活動する理由は何なのか。あらためて聞くと、明るい声でこう答えてくれた。

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