岩手県陸前高田市・秋葉権現川原獅子舞(撮影:岩波友紀)
岩手県陸前高田市・秋葉権現川原獅子舞(撮影:岩波友紀)

放射能レベルが下がってようやく踊りを神社に奉納できた

 さらに失われてしまったふるさとを印象づけるのが「祭りを届ける人々」の存在だ。

 福島県浪江町中心部の川添地区は原発事故で避難指示区域となった。

「それまではお正月になると、獅子神楽が家々をまわっていたんです。ところが、全住民が避難して県内にばらばらになってしまった。なので、(川添の)神楽の人たちは仮設住宅などを車でまわるしかなかったんです。ぼくも同乗させてもらったんですけれど、一回踊って、移動して。県内全部。走行距離は400キロくらいになる。本来は歩いてまわれるのに」

 川添地区の避難指示は17年に解除され、「いまは地元の神社で奉納してから県内をまわる」と言い、作品には神社に供えられた真新しい榊が写っている。しかし、「神社は震災で壊れたまま。原発事故でずっとそのままになっている」。

 同じ浪江町の沿岸部、請戸地区では古くから港近くの神社で田植え踊りが披露されてきた。

 しかし、「津波がきて、神社は流されてしまった。いまは(土台の石組みの上に)小さな祠だけ置かれているだけです。放射能レベルが下がって、18年にようやく踊りを神社に奉納できました」。しかし、周囲にはいまも荒れ野が広がっている。

「そのときに海まで行って、撮影した写真」には、明るい日差しに満ちた美しい砂浜が写っている。波打ち際に駆け寄る法被姿の若者たち。その先に福島第一原発がくっきりと見える。直線距離でわずか6キロだ。

 祭り前日に踊りの練習の打ち込む避難生活をする子どもたち。目の前で神楽を披露され、感極まって涙ぐむおばあさん。その姿は掛け値なしに美しいと思う。勇気や元気をもらえることを実感する。

宮城県石巻市・寄磯大黒舞(撮影:岩波友紀)
宮城県石巻市・寄磯大黒舞(撮影:岩波友紀)

はたして、ふるさとは復興したのか。作品が写し出す厳しい現実

 写真展案内には「祭りが繋ぎ合わせる人々の絆、糸を紡ぐように心がひとつになる人々の姿、岩波さんが見つめ続ける復興への道をご覧ください」と、前向きな言葉が綴られている。

 しかし、作品を見終わって、苦い思いが残った。優れたドキュメンタリーだからこそ、写真を見返せば見返すほど、街や集落が失われ、人々の姿が消え、復興にはほど遠い現実を感じてしまう。

 震災から10年。「人と人とをつなげている唯一のものがお祭りとか、芸能を披露する場」となってしまった状況は、現在もそれほど変わっていないのではないだろうか。

                  (文・アサヒカメラ 米倉昭仁)

【MEMO】第四回入江泰吉記念写真賞受賞 岩波友紀「紡ぎ音」展
奈良市写真美術館 2月20日~3月28日
同名の写真集(214×310ミリ、上製本、168ページ、4000円・税別)も発売する。3月下旬には原発事故後の福島県内を撮影した作品集『Blue Persimmons』(仮題、赤々舎)も出版予定。