福島県南相馬市・村上の田植踊(撮影:岩波友紀)
福島県南相馬市・村上の田植踊(撮影:岩波友紀)

写真家・岩波友紀さんの第四回入江泰吉記念写真賞(※)受賞を記念した作品展「紡ぎ音」が2月20日から奈良市写真美術館で開催される。岩波さんに聞いた。

【写真】岩波友紀さんの写真世界

※入江泰吉記念写真賞は、奈良大和路の文化的・歴史的景観を約半世紀にわたって心象風景として写し続けてきた写真家・入江泰吉の功績を記念するもので、写真文化の発信と新たな写真家の発掘を目的としている。

 これまで岩波さんは東日本大震災と福島第一原発事故の被災地の「祭礼と民族芸能を取材してきた。要するにお祭りです」と言う。

「祭り」というのは本来、神事であり、「神を祀る」という行為そのものを意味している。その「神」とは、神社に祀られる神だけでなく、山や海などの自然に宿る、いわゆる八百万の神も含んでいる。

 稲作を中心とした豊作祈願と収穫感謝、悪霊退散、先祖供養など、祭りの目的は多岐にわたり、そのスタイルも地域によってさまざまだ。

 作品は被災して亡くなった人への祈りの風景だけでなく、散り散りなった人々を結びつける祭りの情景を映し出している。

 一般的に「祭り写真」というと、祭りのクライマックスをとらえた作品をよく目にするのだが、岩波さんは祭りそのものを撮るというよりは、むしろ祭りの周辺や開催前後の人間模様にレンズを向け、丹念に写しとってきた。その背景について、こう語る。

「震災による津波で集落が壊滅したり、原発事故で住めなくなって、ふるさとを追われたりする人たちがいる。生活の基盤というのは周囲に住む人々とのつながりじゃないですか。そういうものがすべて断たれてしまった。それをつなげている唯一のものがお祭りとか、芸能を披露する場。もう、そのときでないと会えなくなってしまった事態があるわけです」

岩手県陸前高田市・うごく七夕まつり(撮影:岩波友紀)
岩手県陸前高田市・うごく七夕まつり(撮影:岩波友紀)

こんなときに、どうして祭りをするのだろうか

 話を聞いて意外だったのは、岩波さんが被災地における祭りの重要性に気づいたのは震災の数年後で、「最初はその意味がわからなかったんでしょうね」と、振り返る。

 岩波さんが初めて被災地で目にした祭りは震災の年の夏、陸前高田市気仙町の「けんか七夕まつり」だった。

「特に陸前高田がどうということではなかったんです。そういう祭りがあると聞いたので、ちょっと行ってみた」

 気仙町の七夕けんかまつりは太い杉の丸太をくくりつけた山車が激突し合う、勇壮な祭りだ。しかし、山車のほとんどは津波によって押し流されてしまった。

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町内会が壊滅。祭りのときにしか集まれない