イラスト:オカヤイヅミ
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 料理をするには道具が必要だ。私はひとり暮らしをはじめたとき、当時、ひとり暮らしの万能調理器具といわれていた、中華鍋を購入した。炒め物もできるし煮物もできる。汁物も作れるので、まず揃えるべき鍋といわれていたのである。それほど高価なものでもなかったし重宝していた。ただ味噌汁を作るために、ステンレス製の小さな片手鍋も持っていた。ご飯は実家にいるときはできなかった、玄米食をしてみたかったので、玄米小豆ご飯を圧力鍋で炊いていた。

 鉄製の鍋で面倒くさいのが、空焼きと油ならしだ。鉄製の鍋には錆止めが塗られているので、それを取らないといけない。鍋を洗剤で洗って火にかけ、中火で鍋を空焼きし続ける。そのうちに鍋の中央部分の表面が青色というか虹色というか、だんだんと色が変わってくるので、そうなるとその部分の錆止めが取れた印になる。側面や上部は一度にできないので、鍋を傾けながら同じように焼いていくのだが、これが結構、時間がかかるし、換気扇をずっと回しながらの作業で、ずっと鍋の前から離れられない。

 全体の錆止めが取れたら、再び洗剤で洗い、次はくず野菜を使って油をなじませる。キャベツの芯とかにんじんのはしっことか、捨ててしまうような部分でいい。200シーシーほどの油を入れて全体にまわるようにしてあたため、油をオイルポットなどに戻して、野菜を炒め始める。そして炒めたら野菜を捨てて終了。せっかく鍋に油がなじんだので、洗剤を使わずにタワシかササラで洗い、水分を拭き取って油を塗っておく。私は格好をつけてササラを買ってしまったが、使い慣れていなかったためにうまくいかず、タワシのほうがずっと使い勝手がよかった。

 しかしテレビの料理番組で見るように、中華鍋の内側がつるっつるで、何を炒めてもするすると具材が動くというわけにはいかず、焼きが甘かったのか、ところどころこびりついたりした。そのたびにそこをこそげ取っていくか、焦げ付かないようについつい油の使用量が多くなっていった。でも炒めた後に煮るとか、竹製の中華蒸籠を上に載せれば、蒸し物も簡単にできる。そのうち使った後に油を塗ることもしなくなったが、使うのには支障がなかったので、結構、長い間、その中華鍋は使っていた。

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