たとえば中途半端に残ってしまった肉、野菜室の隅にあったミニトマト、使い残りの野菜いろいろなど、オリーブオイルを少量入れたスキレットに並べて、塩、こしょうを振って蓋をし、弱火にかけておくだけ。他の調理をしているうちに火が通り、一品できてしまうのである。様子を見ながらチーズをのせたり、卵を割り入れれば栄養バランスもよい。朝のせわしないときでも、ベーコン、ブロッコリーやパプリカ、卵、チーズなどを入れて、シャワーを浴びたり、顔を洗ったりしているうちに出来上がる。ただしやはり油は多めに使うようになるのと、底の形状によりIH調理器で使えないものもあるようなので、確認が必要のようだ。

 昔は便利に使っていたフランスの琺瑯鍋は、歳を取るにつれてその重さが辛くなり、欲しいという方に差し上げた。そしてシリット社のフライパンも最初は表面がつやつやだったのが、いつの間にか曇った感じになり、持ち手も劣化して割れそうになっている。コーティングも永久的なものではないそうで、買い替えの時期かなと思っていたら、日本で販売されなくなってしまった。買い替えがままならなくなったし、まだステンレスのフライパンには戻れなかったので、調べた結果、デンマークのスキャンパンというメーカーが、人体に影響がない特殊なノンスティック加工を施したフライパンを出しているのを知り、買ってみた。するとこれが軽いわ、こびりつきはないわ、手入れは簡単だわで、すばらしい製品だった。

 本当に楽だと思いつつ、私はその便利さがちょっと不安になってきた。あまりに楽すぎるので、これでいいのかと思いはじめたのである。たしかに料理の仕上がりにも問題はないし、卵焼きを作ってもこびりつかない。へそ曲がりな私は、本当に大丈夫なのかと、その完璧さが怪しく思えてきたのだった。もちろんこれは私の考え方で、フライパンに何か問題があったというわけではない。片手でほいほいと扱えるのは、筋力が衰えてきた私には本当にありがたい調理器具だった。

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