「赤塚不二夫の世界がうらやましい。あの中に入りたいです」
今回の写真展の位置づけについては、こう話す。
「これまで、ほとんど海外で撮ってきましたけれど、ここで区切りをつけたい。その締めくくりかな」
14年から4年間という撮影期間については、「それまでとは違った気持ちで撮り始めた。海外に行くともの珍しさはあるし、正直、絵になったり、かっこよかったりするじゃないですか。そこをなくしたい、という感じがあった」。さらに踏み込んだ気持ちについてはこれまで書いてきたとおりだ。
「これからは違う題材で、こういうスナップではない撮り方で作品づくりをしたいな、と漠然と思っています。それは『自分分析』というか。まあ、今回の写真展も一種の自分分析なのかもしれないですけれど」
そこで改めて写真展のコンセプトを聞いてみた。
「自分の人生を肯定するため、というか、こんなもんでいいんだよな、と。他人の人生って、うらやましいというか、隣の芝生は青く見える、みたいに思うけれど、実際の本人には悩みがあったりするじゃないですか。内心では『ろくでもない世の中だな』とか、ちょっと悲観的に思ったりしているんです。でも、そこで多くの人は不通に生活している。ああ、それでいいんだな、と。そこに自分の気持ちを落とし込んで……」
そのとき、不意に私の頭の中に場違いな言葉が浮かんできた(ほとんどオヤジギャグだ)。「これでいいのだ! なんか、天才バカボンみたいですね」。そう、口にすると、意外にも鶴巻さんはしんみり言った。「本当に、これでいいのだ、です。赤塚不二夫のあの世界がうらやましい。あの中に入りたいです」。
ルー・リードの「Perfect Day」を聴きながら作品を見る
インタビューの後、鶴巻さんが大好きだというルー・リードの「Perfect Day」を聴きながら作品を再び見た。暗くつぶやくような歌声、郷愁を誘うピアノ。最初から彼女の写真展はここを目指していたんだな、と感じた。
人生はそんなにかっこいいものじゃない。それに気づき、受け入れられるまでには時間がかかる。
作品は淡々と始まり、淡々と終わる。ありふれた日常を達観してとらえたような清々しさが感じられる。私なら、ルイ・アームストロングの「What A Wonderful World」を聴きながらこの作品を見たい。
(文・アサヒカメラ 米倉昭仁)
【MEMO】鶴巻育子写真展「PERFECT DAY」
キヤノンギャラリー銀座 10月15日~10月21日、キヤノンギャラリー大阪 11月19日~11月25日