写真家・鶴巻育子さんの作品展「PERFECT DAY」が10月15日から東京・銀座のキヤノンギャラリー銀座で開催される(大阪は11月19日~11月25日)。鶴巻さんに話を聞いた。
「PERFECT DAY」。一見すると、新型コロナに沈む世の中への応援メッセージみたいな力強いタイトルだが、全然違う。作品を見て感じたのはむしろ逆説的なメッセージだ。
みんな小さい何かを見つけて、どうにか生きている
写真展では鶴巻さんが2014年から18年にかけて世界各国の都市で撮影したスナップとポートレートの作品を展示する。
そこに写っているのは、ハワイの何の変哲もない路上でパイナップルを砲丸投げの玉のように持つ女性。ロサンゼルスのビルの谷間で黙々と手押し車を押す年老いた女。ベルリンのショッピングモールで幼子を抱き、手持ち無沙汰そうに遠くへ視線を向ける男……。
鶴巻さんはカメラを通して他人のありふれた日常を覗き見ることで、自分の人生を納得させたという。
「みんな同じ人間とか、ハッピーでいましょうとか、笑顔が素敵とか、そういうのは本当に撮りたくないし、見てもなんか、嘘くさいとか、思っちゃう。人間って、素晴らしいとか、1ミリも思わない」
写真展の案内には<どこからか沸き起こる不安から逃れようと満たされない気持ちの穴を埋めるため、私は街を歩き同じように淡々と生きる誰かの日々の欠けらを収集した>と書かれている。
「最近、みんな病んでいるじゃないですか。でも、小さい何かを見つけて、どうにか生きている」
そのひとつがSNSだろう。Facebookなどに幸福な瞬間をアップする。みんな楽しそうにキラキラしている。他人に認められてもらうことで自分の幸せを確認する。
「それで、リア充を見せているけれど、いろいろ話を聞いてみると、みんな意外とそうでもないな、と」
決定的瞬間みたいなものを狙ったわけじゃない
自分自身も「もうお金はなくなってきているし。別にギャラリーをやっているからって儲かるわけじゃないし。逆に、家賃払えたらいいな、くらいだし。じゃあ、何でやっているの、と言われたら、何ですかね。まあ、幸せとか喜びまではいかないんですけれど」。
インタビューはその「Jam Photo Gallery」(東京・目黒)で行ったのだが、今春、この場所でも写真展「PERFECT DAY」を開催した。当初はキヤノンギャラリーで予定していたのだが、新型コロナで延期となり、了承を得たうえで開いたのだ。
そして今回、また元の会場で写真展を開催する。
「でも、『もう見たし』という人もいると思いますし、私の気持ちも変わってくる」
そんなわけで、予定していた展示を一部、壁面で変更する。そこには同時期に撮影したもののなかから、ほかとは違った視点で選んだ作品、20、30点を「ぐちゃぐちゃにかためて」見せるつもりだ。
「ほかの写真は、声をかけてとか、狙ってとか、そういう感じで撮っていますけれど、こっち(の壁面)は本当に気持ちが動いたときに直感で撮ったものを集めようかな、と」
いずれの写真にせよ、「決定的瞬間みたいなものを狙ったわけじゃない。パリだったら、パリの空気をとらえるわけでもなく、撮ったのは本当に普通の人々。ただ、ちょっとだけ事件アリ、じゃないですけど、何かが起きている。この人は何でパイナップルを持っているの? とか。人ってどこかおかしいじゃないですか。滑稽、というか。ふだんは意外と情けなかったりする。写したのはそこですかね」。