「今回このような状況になってしまったのは学生のグローバル体験を支えたいという熱い思いを持っている大学側としては本当に残念」と語る矢口教授。東大生が海外に出る機会だけでなく、海外からの留学生が東大に来る機会までもが失われることを懸念する。「中には交換留学で東大を気に入って東大に院進してくれるような学生もいるはずなので、それが途絶えてしまうとすれば、もったいないです」
本部国際交流課学生受入チームの近藤理沙子係長によると、19年9月から東大に来て20年の春学期も在籍予定だった学部交換留学生60人のうち、13人が新型コロナウイルス感染症の影響で帰国。70人以上受け入れ予定だった今年4月からの学部交換留学生は、実際に来日できたのが16人だった。20年秋の受け入れはすでに中止が決定しており、21年春の受け入れについては10月頃に判断を行うという。
実際の渡航が困難な中、海外の大学の授業を遠隔で受講するなどといった「オンライン留学」がにわかに注目を集める。長年国際交流を担当してきた矢口教授は「個人的にはオンライン授業には可能性を感じる」と話す。例えば経済的な事情で留学できない学生がオンラインを通して国際体験を積める、学生の多様性が十分ではない東大の授業にオンラインで世界中の学生に参加してもらえるといった潜在的な利点は多い。
一方で、オンライン授業は「やはり留学の代替にはならない」と念を押す。「自宅で一コマだけ海外の授業を受けて、そのままご飯を食べながら日本のテレビを見るのと、実際にキャンパスで授業を受け、休み時間には周りの学生と会話するといった体験は、これはもう全く違うものです」。むしろ、オンラインでの海外大の授業履修をきっかけに留学する、あるいは留学から帰国後も留学先の大学の授業をオンラインで履修するなど、相補的な活用が望ましいという。
「先の見通せない状況だが、ある意味時代の転換点にいるため、学生の皆さんにはこの先の未来をどう作るか考え、このチャンスを生かしてほしい」と熱弁する矢口教授。最後に学生にこう語りかけた。
「今は留学できないかもしれないが、必ず皆将来世界に羽ばたいて行くことになる。それに向かって準備をしていってほしい」
矢口祐人教授(やぐち・ゆうじん)(情報学環)
1999年米ウィリアム・アンド・メアリー大学大学院Ph.D.取得。2018年より国際化教育支援室長。
(文/東京大学新聞社・高橋祐貴)