「聴き続けるうちに、少しずつ英語が聞き取れるようになり、学校でも自分から話しかけてみようと勇気が湧いてきたんです。最初は簡単な挨拶からですけど」
と、微笑む。
新型コロナが流行し、人と会って話すことに躊躇する今は、12歳の頃に自分が置かれていた状況と似ている。気持ちを言葉にして伝えたいのにうまくできないモヤモヤ感。
「読者も同じ感覚なんじゃないかなと思ったんです。話すトレーニングを受けていなくても、声のコミュニケーションを楽に感じてもらうには、どう表現したらわかりやすいかなと、あの頃の自分を思い出しながら書きました」
それとともに、人の気持ちを落ち着かせる声の力に、あらためて気づくことになった。声で気持ちを伝えるラジオがますます好きになった。自分が声の仕事に就けたこと、ずっと続けてこられたことのありがたさも再認識した。
秀島さんが周囲から相談される悩みは、「初対面の会話がしんどい」と「緊張する」がツートップ。
「よくわかります。私もいまだに緊張することがありますし。でも、自分が思い込むほど、人は怖くないですよ。皆さん、自分を減点しすぎなんじゃないでしょうか。相手がどんどん引いて見えるときは、相手を見ずに近づきすぎているのかもしれません。聞き上手は、ぽつぽつと間があったりしますよね。一人で頑張るのはちょっと脇に置いておいて、もっと気楽に、会話を相手に委ねてもいいんじゃないでしょうか」

(ライター・角田奈穂子)
※AERA 2022年7月11日号