画面右端の泉書房の家屋を探し当て、定点撮影に挑んだ。生活感に満ちていた都電停留所の趣は、まったく失われていた。(撮影/諸河久)
画面右端の泉書房の家屋を探し当て、定点撮影に挑んだ。生活感に満ちていた都電停留所の趣は、まったく失われていた。(撮影/諸河久)

 旧大塚坂下町の定点を探すのは簡単だった。当時は都電の軌道+一車線だった日出通りの現状は、護国寺方面への片側二車線に変貌していた。池袋方面の道路は背後の首都高速5号池袋線の高架下にある。近景は日出通り道路中央のセーフティーゾーンからの撮影で、旧景の右端に位置する泉書房の家屋が半世紀後も健在だった。画面右端を外れたところに「雑司ヶ谷霊園入口」バス停留所があり、池袋東口~東京ドームシティを結ぶ東02乙系統の都バスが思い出したように走っていた。

 かつての大塚坂下町停留所には生活感が溢れていた。その風情は半世紀の時空の中に消え去っていた。

■撮影:1965年11月18日

◯諸河 久(もろかわ・ひさし)
1947年生まれ。東京都出身。写真家。日本大学経済学部、東京写真専門学院(現・東京ビジュアルアーツ)卒業。鉄道雑誌のスタッフを経てフリーカメラマンに。著書に「都電の消えた街」(大正出版)、「モノクロームの私鉄原風景」(交通新聞社)など。2019年11月に「モノクロームの軽便鉄道」をイカロス出版から上梓した。

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