後日、Qくんは彼女の家だけではなく、他にも息子と同じクラスの友だちの家を回って、同じようなことをしているとわかった。中学受験の予定はなく習い事もしていないので、下校後や土日は時間が余っているのだ。彼なりの知恵なのだろうが、家に来るのは親がいて手作りの食事が食べられる時間帯に合わせているようだった。しかし彼女の家もそうだが、他の家もそれなりにいろいろと事情がある。いつもいつもQくんが御飯時に現れ、そのたびに食事を食べさせていいのだろうか。第一、そのことに関して、彼の母親からは何もいってこないので不安になっていた。

 息子にもやっと勉強の習慣がついたのに、Qくんが遊びにくると勉強が疎かになって、二人で遊びたがる。彼女も土日が休みなので、自分のやりたいことがあるし、家族の予定を立てているときもある。そこへQくんが毎週末にやって来るので、最初は自分の予定を変更したりしていたのだが、このままずっとこの状態を続けていくのはいけないと考えていた。

 あるとき、夕方になっても帰らない彼が、

「今晩、お泊まりしていい?」

 と聞いたので、

「それはだめよ。お母さんの許可をもらっていないし、お泊まりの用意を何もしてないでしょう」

 というと、ものすごい勢いで家に帰り、レジ袋に自分なりのお泊まりセットを入れて戻ってきて、それを見せたという。それでもQくんの母親と連絡が取れないのに、勝手に子供を家に泊めるわけにはいかないので、

「それはできないの。今日はおうちに帰りなさい」

 と説得して家に帰した。

 そしてまた、毎週、土日の昼の十二時前にやって来るので、彼女は、うちの子供は受験をひかえてこれから勉強をしなくてはならないし、いつも御飯を作ってあげられるわけではないからと説明すると、彼は泣きながら走って帰っていったというのだった。

「その姿を見たら、胸が痛んで仕方がなかったです。息子にも僕の大事な友だちにひどいことをしたって大泣きされましたし。うちの子供はきちんと理由を説明したら納得してくれたんですけど。私もできればそんなことしたくなかったのですが、こちらの事情もあるし、Qくんにとってもよくないと思って……。彼はそのような環境に生まれたのだから、それを受け入れてそのなかで自分なりにがんばっていくしかないじゃないですか。いつまでも友だちの家で御飯を食べさせてもらったり、泊まらせてもらったりできるわけではないし。彼にもちゃんと考えてもらわないといけないなと思ったんです」

 それはそうでしょうと、私は彼女の言葉に同意した。

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