そしてQくんが御飯を食べるために遊びに行っていた他の家のお母さんたちも困っていて、彼女と同じように、いつも御飯を作ってあげられるわけではないからと彼に話した。なかには家に上がるのに慣れてしまったのか、彼に勝手に室内の戸棚を開けられてしまう家もあったという。しかしお母さんたちは、彼にそういってしまった自分を責めていて、これからどうしたらいいのだろうかと電話で話し合ったというのだった。

 私はそれを聞いて、

「もうお母さんたちだけでは解決できない問題だろうから、Qくんのクラスと、息子さんのクラスの担任の先生二人に、事情を話したほうがいいんじゃないのかしら。そして先生からQくんのお母さんに話してもらったらどうかな」

 といった。Qくんの母親が状況を知っているのか知らないのかはわからないが、もしも知らなかったら、

「何をやってるの、恥ずかしい。お金をちゃんとあげてるのに」

 と彼を叱りつけてしまいそうだ。とにかく彼の母親に現状を知ってもらって、先生と話し合ってもらうしかなさそうだった。

 Qくんは特殊な子供ではなく、そういう子供はあちらこちらにいるような気がした。知人が住んでいるのは私と同じ区で、東京都のなかで平均年収が高い市区町村でベスト10に入っている。しかし彼のような子供がいるのだ。母親が働いているといっても、みんながみんな昼のお勤めとは限らない。想像するにQくんは、母親が寝ている間に、もらったお金で買った、菓子パンやカップ麺を食べて学校に行く。昼は給食を食べて学校から帰ると母親はすでに出勤して不在で、置いてあるお金で朝食と同じような晩御飯を買うか、回転寿司店で一人だけで食べる。しかし友だちの家に行ったところ、御飯を食べさせてくれた家が何軒かあったので、自分なりにローテーションを組んで、訪ねるようになったのだろう。毎週、土日に知人の家にやって来たり、泊まっていいかと聞いたりとなると、母親と一緒に過ごしている時間自体が、とても少ないのかもしれない。

 私は家に帰ってから、Qくんと母親について、いろいろと考えた。私が子供の頃は友だちの家に泊まらせてもらうのが、どこかわくわくした記憶があり、彼も単純にそういう気持ちだったのか、それともお母さんには彼氏がいて、子供がそばにいると面倒なので、家に帰ってくるなといい渡されたのだろうかと、彼と母親の生活を想像していた。

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