『ハイパーハードボイルドグルメリポート』
朝日新聞出版より発売中
この本がある意味で番組より面白くなってしまったのは、必然だとも言えました。『ハイパーハードボイルドグルメリポート』は、書籍として世に出ることを最初から宿命づけられていたと言っても過言ではないのです。少なくとも、僕の頭には番組を作り始めた当初から、書籍がその終着点としてイメージされていました。
「テレビじゃ無理だ」――そう確信したのは、西アフリカの小国・リベリア共和国を訪れた時です。
僕にはそこが“世界中の不幸を寄せ集めた国”に見えました。人食いが横行した凄惨すぎる内戦。街に死体の山を築いたエボラ出血熱。絶えぬ汚職、変わらぬ貧困――。
年がら年中死屍累々たるこの国には、命の炎が鮮やかに燃え立っていた。その炎を収めるのに、テレビという枠はいささか小さすぎたのです。
もちろんどれだけ言葉を並べても、画面に映し出される人間の表情を伝えきることはできません。けれど一方で、あのにおいとあの肌触りとあの温度を、本になら言葉で移植することができるかもしれない。なにより、僕があの濃密な旅の中で経験した興奮と感動と葛藤を、文章でなら誰かと共有することができるかもしれないと思ったのです。
すいません、抽象的なことばかりを書いていますが、本の中身は具体的なことばかりなのでご容赦ください。
この本には、不勉強な僕という人間が世界中の“ヤバい”場所に踏み入って誰かと出会い、飯を分けてもらいながら、知恵をつけていく様が描かれています。
リベリアの墓地に暮らす元少女兵の娼婦。台湾マフィアの組長。シベリアのカルト教団村で生まれ育った少年。ケニアのゴミ山の頂上でひとり暮らす青年。他にもたくさんの人との出会いがここに収められています。
なんでもない僕にとっては、彼らは皆“ヤバい”人たち。
だけどそんな彼らと食事を共にすればするほどに、僕の“普通”がぼんやりと揺らいでいくのでした。
人を殺すことはどうして悪なのか、身体を売ることは誰を傷つけるのか、カルトとは何を意味するのか、そして幸せとは一体なんなのか。