営業時間を延ばせば、その分多くのお客さんにラーメンを提供することができる。それでも、「はやし」はオープン当時は午後5時までだった営業時間を午後3時半までに短縮した。
店主と奥さんの二人で切り盛りする「はやし」。毎日の仕込みのことを考えると、今のペースで続けるのがベストなのだと筆者は思う。ラーメン店の中には従業員を育てて多店舗化するところも多いが、「はやし」のように一つの店舗を守り続けるラーメン店のあり方も素晴らしいと感じる。「はやし」のラーメンはここでしか食べられないのだから、ここに来るしかないのだ。こうして「はやし」は渋谷一番の名店に上り詰めた。
「八雲」の稲生田さんは、林さんを職人としてリスペクトしている。
「他の店でラーメンを食べるときは、『はやし』によく行きます。林さんは3時起きで仕込みをされていて、丁寧なラーメン作りが伝わってきます。自分の作るラーメンと方向性は違いますが、きちんとした一杯なんです。本当にファンの多いお店ですよ」(稲生田さん)
林さんも「八雲」のワンタンメンが大好きだという。
「修行先だった『たんたん亭』の味を自分なりに改良して、美味しい一杯を作っていますね。オーソドックスながら、真剣に作られた味は今の人にも勧められる素晴らしいお店です。まさに私の理想に近い職人です」(林さん)
二人とも寡黙な職人で、まさに背中で語るタイプ。派手さはないが、味だけでここまで上り詰めたのは偉業である。(ラーメンライター・井手隊長)
○井手隊長(いでたいちょう)/大学3年生からラーメンの食べ歩きを始めて18年。当時からノートに感想を書きため、現在はブログやSNS、ネット番組で情報を発信。イベントMCやコンテストの審査員、コメンテーターとしてメディアにも出演する。AERAオンラインで「ラーメン名店クロニクル」を連載中。Twitterは@idetaicho
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