「『女性は赤ちゃんを産んだらお母さんになる』という価値観が社会に浸透している。母親が育てなくてはならないという価値観に支配された社会では、産んだ女性が母親の役割を引き受けないという選択を認めていない」

 姜氏は、江戸時代の日本社会では捨て子が地域で育てられることもあったが、近代家族の定着とともに家族の中に関係が縮んでいって、子育てが母親に集中していったと指摘する。

「実母が出産当日に赤ちゃんを殺害してしまうゼロ日殺害遺棄事件が連日のように起きています。子どもだけでなく、女性が置かれている状況そのものに目を向けて考える必要があります」

 ドイツとは歴史や背景の異なる日本では、日本型の内密出産制度を模索することになるだろう。そのとき、子どもと女性は等しく当事者だ。内密出産を選択した女性には「出産を知られたくない権利」がある。どのような形であれ、産む性の「知られたくない権利」を担保することは内密出産が成立する条件だ。(ノンフィクションライター・三宅玲子)


AERA 2022年7月4日号より抜粋

AERA2022年7月4日号より
AERA2022年7月4日号より
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