「ドイツのベビークラッペ(赤ちゃんポスト)には、赤ちゃんの殺害遺棄を減らした成果が見られないとして子捨てを助長するのではないかと批判が集まりました。そして内密出産への取り組みが始まっていくわけですが、2014年5月に内密出産制度が施行され、19年4月までの5年間に570件の内密出産がありました。制度ができると捨て子の呼び水になるのではとの批判もありますが、少なくとも匿名型の出産と捨て子は減少したと評価されています。日本もガイドラインでお茶を濁すのではなく、法整備をして根本的に取り組むべき問題です」(法学者の床谷文雄・奈良大学文学部教授)

 ドイツの内密出産制度を研究する柏木恭典・千葉経済大学短期大学部こども学科教授は、歴史背景の違いを知っておくことが大事だと話す。柏木氏によると、ドイツではホロコーストの反省から戦後は生命の尊厳が社会の最優先課題となり、中絶を巡って論争が起きたという。そして中絶を食い止めるためにまず「妊娠葛藤相談所」という相談センターが創設された(現在ドイツ国内に約1600カ所)。それでも新生児遺棄や殺害をする人が残るため、次に登場したのが匿名出産、赤ちゃんポスト、そして内密出産という流れだ。

「ドイツでは社会全体の議論と要請によりこれらの仕組みが検討され、つくられてきた。それに対し、日本では深刻な少子化に直面しながら議論がまだごく一部の人たちの間でしか行われておらず、妊娠葛藤や緊急下の妊婦への関心は乏しい」(柏木氏)

 日本で内密出産に関する取材をしていると、行政関係者は必ず「赤ちゃんの福祉のために」と言う。子どもの福祉が大切であることは言うまでもないが、内密出産の当事者は女性と赤ちゃんの二者であるはずなのに、女性はいつも蚊帳の外にされている。

 海外の内密出産制度を調査している姜恩和・目白大学人間学部准教授は、海外に比べて日本は母子一体の社会的価値観が強いことが影響しているのではないかと話した。

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