■中華料理の延長ではやっていけない
東武東上線・朝霞駅の南口から徒歩10分。公園通り沿いに「中華蕎麦 瑞山(ずいざん)」はある。10年にオープンし、当初から塩をメインに勝負している。塩でインパクトを残すのは難しいと言われるなか、人気店になっているのはすごいことだ。
店主の初谷智久(はつがい・ともひさ)さんは栃木県佐野市生まれ。「佐野ラーメン」が有名で、外食といえばラーメンという幼少期を過ごす。親が料理上手だったこともあり、子どもの頃から料理が好きで、中学1年生の時には「将来は料理人になる」と文集に書いていた。
「ラーメンは中華料理だ」と初谷さんは思っていたため、高校を卒業してから群馬県の料理専門学校に進学。高級中華の料理人を目指した。卒業後は結婚式場に就職し、中華部門で4年間働く。その後、支配人が東京都練馬区にある中華料理店を紹介してくれて、28歳まで5年間勤めた。
「高級な中華料理店で必死に腕を磨いてきましたが、独立した時のことを考えると客単価5千円から1万円の料理を出すのはなかなか難しいだろうと考えたんです。いくら腕が良かったとしても、店の外装や店づくりなどを考えると個人店では厳しいと思いました」(初谷さん)
一度リフレッシュしようと東京・高円寺でアパレルショップを開いていた初谷さん。その頃居酒屋で出会った不動産屋の社長に「飲食店がやりたいんだ」と相談すると、江古田にある中華居酒屋を紹介してくれた。桜台の「丸長」のつけ麺が好きだった社長のリクエストで、つけ麺を再現して店で提供した。
やがて、朝霞にあるもう一軒の物件を任されるようになり、そこをラーメン専門店にした。店名は「麺屋 はつがい」。初谷さんのラーメン店主としてのデビューはここが始まりだ。06年のことだった。
出身である佐野から青竹打ち麺を仕入れて、つけ麺に合わせるなどオリジナルを追求したが、客足は安定しなかった。エリア的にもつけ麺が定着していなかったのである。
そこで、清湯の甘辛系のスープから、白湯系に味を変えることにした。すると、徐々にリピーターが増え始める。同じタイミングでラーメン評論家の石神秀幸さんが「ビッグコミックスペリオール」で店を紹介したことで、さらに火がついた。
10年には独立し、朝霞に「中華蕎麦 瑞山」をオープンした。ここでは塩の清湯系で勝負することにした。
「白湯系のお店もだいぶ増えてきて、差が出せなくなってきた頃でした。あっさりとした清湯系は、技術が出しやすいのでこちらで挑戦しようと思いました。3~4カ月はきつかったですが、少しずつお客さんがついてくるようになりました」(初谷さん)