日本に数多くあるラーメン店の中でも、屈指の名店と呼ばれる店がある。そんな名店と、その店主が愛する一杯を紹介する本連載。東京都板橋区の赤塚にある手もみ麺の名店の店主が愛する一杯は、埼玉県朝霞市にある人気店の塩ラーメン。高級中華からラーメン屋に転身した店主が紡ぐ芳醇な一杯だ。
【写真】かつては「うどん」と言われたことも 板橋の超人気ラーメン
■「お客さんに伝わらないものを使っても仕方ない」
東京メトロ・地下鉄赤塚駅から徒歩3分、東武東上線・下赤塚駅南口から徒歩5分。川越街道沿いにある「麺や 河野」は自家製の手もみ麺が特徴の人気店だ。2010年に西武池袋線・中村橋駅近くで創業し、18年に現在の場所に移転している。
店主の河野三英さんは劇団員だったが、劇団の解散をもって演劇の夢を諦め、ラーメンの世界へ。「麺や 七彩」での修業を経て独立し、「麺や 河野」をオープンした。
製麺機を買うお金がなく、そば打ち教室に通って手打ち麺にチャレンジした。オープン時は、サバ節がメインの醤油ラーメン一本で営業していたが、少しずつ味をシフトしていく。
「何か変わった食材を使わなきゃいけないということにとらわれていました。ですが、お客さんとのやりとりを通じて、お客さんに伝わらないものを使っても仕方ないなと思うようになったんです。そこからサバと軍鶏(しゃも)をやめ、使いやすい食材で作るようにしました」(河野さん)
ここから「河野」のラーメンは麺を生かしたシンプルな構成になっていった。18年には店を板橋区赤塚に移転し、広さも倍に。よりラーメン作りに集中できるようになった。メインはあくまで麺におきながら、それに負けないスープを開発した。修業先である「七彩」の店主・阪田博昭さんから「味作りは一つずつやっていけ」という教えをもらい、その通り一つずつ実験を重ねて今のスープにたどり着いた。
「うちの極太麺は昔はよく『うどん』とか『きしめん』とか言われたものです。それを払拭しようと、ラーメンらしい“負けないスープ作り”を頑張ってきました。今は、手打ち麺ブームも来て、ブレずにやってきて良かったなと思います」(河野さん)
トレンドは日々移り変わるが、河野さんはそのラーメンがもう一回食べたくなるものかどうかを重視している。毎日でも食べられるラーメンを作りたいと思って味を追求していくと、おのずと理想の味に近づいていった。
「手打ちの製麺はかんすいとの戦いで、グルテンの弾力が反発してきてなかなか大変で、体力のいる仕事です。年をとっても続けられる形を目指して麺作りも進化させていきます」(河野さん)
そんな河野さんの愛するのは、埼玉県朝霞市にある塩ラーメンの名店。高級中華の料理人からラーメン職人に転身した店主の紡ぐ一杯だ。