国内外の人々を惹きつけてやまない京都。その四季折々の魅力を、京都在住の人気イラストレーター・ナカムラユキさんに、古都のエスプリをまとったプティ・タ・プティのテキスタイルを織り交ぜながら1年を通してナビゲートいただきます。愛らしくも奥深い京こものやおやつをおともに、その時期ならではの美景を愛でる。そんなとっておきの京都暮らし気分をお楽しみください。
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■秋色に包まれる京都 紅葉狩りへ
街路樹から四方の山々に至るまで、オレンジから紅の暖色に染まり、京都の街がすっぽりと秋色に包まれる季節になりました。この時期の京都人の挨拶代わりの会話は「今年はどうえー?」「ぼちぼちかなあ、去年よりは、ええ感じや」と言った具合に、紅葉の加減を気にしてないように見えて、実はとても気にしているのです。温暖化の影響もあり、「今年は、あかんわあ」と嘆き合うこともしばしば。春の桜と並んで秋の紅葉は、四季を慈しむ京都人の心の支柱のような存在なのかもしれませんね。
紅葉の名所と呼ばれる場所は数多くありますが、「私はここから眺める紅葉が一番好き」という“自分だけの名所”を密かに持って楽しむことも大切だと思っています。私は、秋になると育った嵯峨野へ原点回帰の気持ちで、広沢池から田畑のあぜ道を抜けて、大沢池(大覚寺)へとゆっくり巡ります。大沢池に映る紅葉の幻想的な風景は、約50年前から今も変わらずに心の中にあり続けているのです。今回は幼い頃から親しみがあり、思い出深い大覚寺を訪ね、紅葉狩りへ。秋を彩るお菓子や小物と一緒にご案内します。
■嵯峨野が織り成す四季の風景 水鏡に映る紅葉を愛でる
京都市右京区、嵯峨にある「大覚寺」は、平安時代初期に嵯峨天皇の離宮として建立された門跡寺院です。いけばな発祥の寺、心経写経の根本道場でもあり、時代劇のロケ地としても広く知られています。境内の東にある周囲約1kmの「大沢池」は、唐(中国)の洞庭湖を模して造られたと言われる日本最古の庭池です。秋が深まる今の季節には、池の周りの桜やもみじが黄色から赤へと染まり、水鏡に映される長閑な風景は、心を安らかにしてくれます。また、放生池(ほうしょういけ)に映し出される朱塗りの心経宝塔(しんぎょうほうとう)と紅葉の姿は、嵯峨野が織り成す四季の風景に溶け合い、いつまでも離れ難くなるのです。