映画版「柴公園」の完成披露舞台挨拶の楽屋。あたるパパ(渋川)、じっちゃんパパ(大西信満)、さちこパパ(ドロンズ石本)が揃った。映画では「BOYS AND MEN」の水野勝扮する謎の男の正体が明らかに(撮影/山本倫子)
映画版「柴公園」の完成披露舞台挨拶の楽屋。あたるパパ(渋川)、じっちゃんパパ(大西信満)、さちこパパ(ドロンズ石本)が揃った。映画では「BOYS AND MEN」の水野勝扮する謎の男の正体が明らかに(撮影/山本倫子)

 映画「カンザス/カンザス経由→N.Y.行き」で、腕に黒豹の入れ墨をしているマット・ディロンに憧れると、すぐさまマネをした。青春を謳歌する彼は、1年ちょっとで学校から離脱してしまう。しかし、とんでもない奇跡も引き寄せた。

 バイトに向かう地下鉄日比谷線の茅場町駅のホームで、外国人女性が話しかけてきたのだ。

「あなたの写真を撮らせて欲しい」

 それは、ニューヨークとパリを拠点に世界的に活躍しているフォトグラファー、ナン・ゴールディンだった。たまたま日本の若者を撮るために来日していて、渋川に目が留まったのだ。

「ほとんどは紹介された相手を撮ってたみたいだけど、俺はホントにバッタリ会って。だからまぁナンのタイプだったんでしょうね」

 渋川の写真はナンと荒木経惟の共同写真展や写真集『TOKYO LOVE』に6枚も使われた。ナンが映し出した渋川は、ナイーブそうな瞳の奥に若き反抗心を宿し、まるでジェームス・ディーンのように美しい。その写真をきっかけに大手芸能事務所に所属した彼は、「KEE」という名で「メンズノンノ」や「スマート」で活躍する人気モデルとなっていく。同時期に活躍していたのがARATA(井浦新)や伊勢谷友介だ。モデルをやっていると俳優の仕事がもれなくついてくる時代で、渋川もその流れに乗った。

「単に面白そうだなという感じで、先のことなんて考えてないですよね。目の前にあることをやってるだけというか」

■出身地にちなんで改名、情に厚いから愛される

 しかし、そこで彼は非凡な才能を発揮する。映画デビュー作であり、俳優としての可能性を世に知らしめたのが「ポルノスター」だ。主演の千原ジュニアや鬼丸らの強烈な個性がぶつかり合う中で、渋川はノリの軽い子分を演じ、堂々たる存在感を放った。監督の豊田利晃(50)は振り返る。

「男って、集団でいると誰しも自ずから演技をする。無自覚に、自分が求められる役割を演じるんです。『ポルノスター』は不良の話だし、渋川清彦が本来持ってる集団においての振る舞い方というか、普段の自分を活かした芝居ができたんじゃないですかね。あまりバチバチやると萎縮しちゃうタイプだから好きにやってもらって、彼が持つ独特のリズムを活かした感じでしたけど……。人って手足や表情の動かし方なり、リズムがある。彼はそれが軽快なんです。そんなリズム感を持ってる役者は他にはいない。で、どこにでもハメられる。そういう良さをもっていると思った」

 10代の終わりから纏い始めた男くさいアンダーグラウンドな世界の空気感。それは、役者としての強烈な持ち味になり、順調にキャリアを重ねていく。そんな彼が、仲間と自分たちの好きな世界を表現したファッションブランドを立ち上げてみれば、服は飛ぶように売れた。

「どんどん金が入った。車も持ってたし、このころは派手に遊んでましたね」

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